図1-42 フェロシアン化物イオンの添加による廃液処理プロセス
図1-43 遷移金属の種類による除去率の違い
図1-44 Cs除去率の増加
東京電力福島第一原子力発電所(1F)では、原子炉冷却や地下水流入に伴い放射性物質に汚染された水が大量に発生し、施設内に滞留あるいは貯槽に保管されています。汚染水には放射性セシウム(137Csなど)に加え、原子炉材料由来の放射性遷移金属(60Co,54Mnなど)が含まれています。
水溶液から放射性物質を除去する方法として、Csに対しては不溶性フェロシアン化合物 (HCF) による吸着法が、遷移金属に対しては鉄共沈法がよく知られており、1Fでも、実際にこれらの技術が採用されています。
この吸着法は、HCFがCsを優先的に吸着する特性を利用したものです。HCFは、遷移金属がフェロシアン化物イオンと反応 (結合) してできた物質です。また、鉄共沈法は、FeイオンをOH-と反応させて沈殿を作ることにより、鉄と同じ化学的性質を持つ遷移金属も沈殿する原理を利用したものです。
私たちは、汚染水に含まれる遷移金属を利用してHCFを合成し、同時に合成したHCFでCsを吸着する方法を検討しました(図1-42)。
まず、遷移金属とフェロシアン化物イオンとの反応のしやすさを調べました。遷移金属の種類により反応のしやすさに違いがありますが、遷移金属と同量以上のフェロシアン化物イオンを加えることで90%以上の遷移金属はHCFとなり、汚染水から除去できることを確認しました(図1-43)。
次に、合成したHCFによるCs除去における、遷移金属量とCs除去率の関係を調べました。遷移金属量がCsの12倍のとき95%、18倍のとき99%のCs除去率でした (図1-44)。
上述の結果のように、今回検討した方法によって、Csと遷移金属の比が適当な範囲のとき、簡素なプロセスで放射性CsとCo, Mnを同時に比較的高い割合で除去できるポテンシャルが示されました。
1Fでの汚染水については、既にいくつかの方法で処理が進んでいますが、今回検討した方法は、Cs除去作業により発生する廃液などにも応用が期待できます。