1-9 水の安心のための浄水器

−放射線グラフト重合法によるセシウム捕集材の開発−

図1-18 改良型捕集材の性能評価

図1-18 改良型捕集材の性能評価

架橋助剤とその量を変えた場合のCs 吸着量と捕集材の安定性(未架橋型捕集材のMo 剥離量を架橋型捕集材のMo 剥離量で除した値)の結果を示しており、右上に位置するほど、高性能な捕集材となります。

 

図1-19 (a)Cs除去用浄水器と(b)カートリッジ内部構造の概略図

図1-19 (a)Cs除去用浄水器と(b)カートリッジ内部構造の概略図

開発した捕集材を交換が容易なカートリッジに組み込んだ浄水器の商品化を進めています。現在は、福島県内でモニター試験を実施しています。

東京電力福島第一原子力発電所事故から2年余が経過し、生活圏内における可溶性の放射性セシウム(Cs)は、ほとんどが検出限界以下であり、溶存する場合においても極めて低濃度になってきています。しかし、環境省の2012年9月11日の発表では、避難指示解除準備区域を対象とした福島県の井戸水と沢水を水源とする飲料水のモニタリング調査において、436箇所のうち6箇所から放射性Csが検出されたと報じられました。私たちは安心して生活できる水の確保が喫緊の課題と考えました。

私たちは、事故直後から、可溶性Csを吸着可能な吸着基としてリンモリブデン酸基をポリエチレン製の不織布に付与(担持)するために、γ線や電子線を用いる放射線グラフト重合法を活用し、除染材料(捕集材)の開発を行ってきました。その過程で、吸着基の担持安定性に問題が見つかり、それを向上させる必要がありました。そこで、捕集材合成時に架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC),3種類のポリエチレングリコールジメタクリレート(4G,9G,14G)をそれぞれ添加することで、グラフト重合により導入したメタクリル酸グリシジル(GMA)側鎖に網目状構造(架橋構造)を付与した吸着基安定型の捕集材を合成しました。

合成した捕集材の性能を評価するために、50 μg/Lの安定性Cs溶液50 mLに、15 mg(1 cm角)の捕集材を入れ、24時間浸漬攪拌して試験を行いました。その結果、架橋型捕集材は、未架橋型捕集材に比べ、Csをより多く吸着し、吸着基であるリンモリブデン酸基(モリブデン(Mo)の剥離量で算出)の剥離がほとんどない捕集材に改良することができました(図1-18)。

また、上記のような捕集材の改良により、食品衛生法,水道法の飲料水に関する監視項目を満たすことに成功し、捕集材を飲料水に適用できるようにしました。さらに、このCs捕集材を組み込んだカートリッジ式の浄水器(KranCsair®)(図1-19(a))を開発しました。Cs捕集材は、カートリッジに充てんしており(図1-19(b))、定期的な交換が容易にできる構造となっています。今後は、この浄水器の商品化を目指し、福島県内で現在実施しているモニター試験を通して、最終的な製品仕様を決定していく予定です。