1-8 森林表土における移動性セシウムの保持機構を探る

−土壌微生物と非生物成分による保持量の評価−

図1-16  事故から3ヶ月後の森林土壌における137Csの深さ分布

図1-16 事故から3ヶ月後の森林土壌における137Csの深さ分布

福島県内の5箇所の森林で、表層土壌における137Csの存在量とその深さ分布を調べました。森林表層に沈着した137Csの50〜91%が落ち葉の層()に、6〜39%が土壌の浅い部分()に存在していました。

 

図1-17 硫酸カリウムによって土壌から抽出された137Csの割合

図1-17 硫酸カリウムによって土壌から抽出された137Csの割合

クロロホルムくん蒸によって微生物を死滅させた土壌と、くん蒸を行わなかった土壌で137Csの抽出率を比べました。すべての土壌で、くん蒸による抽出率の増加は見られませんでした。

東京電力福島第一原子力発電所 (1F) 事故は、大量の放射性セシウムを環境中へと放出し、福島県に広く分布する森林生態系に深刻な汚染をもたらしました。事故の3ヶ月後に行った調査では、森林表層に沈着した137Csの89%以上が落ち葉と浅い土壌に存在していることが分かりました(図1-16)。1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故の影響を受けた地域では、森林に沈着した137Csが今もなお表層土壌に留まっています。そして、表層土壌から樹木や森林生産物へと137Csが移行し続けています。そのため、表層土壌の中で、137Csがどのような状態で存在し、移動するのか、その仕組みを明らかにすることが求められています。

私たちは、土壌の微生物に注目して、微生物が森林の中での137Csの動きにどのような影響を与えるのかを調べました。土壌微生物には、137Csを蓄積するものが存在します。そのため、微生物が土壌中で137Csの一部を取り込み、動きやすい状態に保っている可能性があります。そこで、1F事故から1年後に、5箇所の森林から性質の違う土壌 (表面から3 cm) を採取し、次のような実験を行いました。

まず、硫酸カリウムを用いて土壌から137Csを抽出したところ、2.1〜12.8%が離れやすい移動性の137Csとして取り出されました。その割合が高かった土壌は、粒子の細かな成分が多く、有機物に富む黒ボク土でした (図1-17、森林4と森林5)。次に、クロロホルムくん蒸によって微生物を死滅させてから、死滅した微生物の細胞と一緒に土壌から137Csを抽出してみました。もし微生物が137Csを保持しているならば、その分だけ取り出される137Csが増えるはずでしたが、結果は変わりませんでした(図1-17)。

この結果から、微生物による137Csの取り込みは、鉱物など非生物成分による吸着と比べて、潜在的に移動しやすい137Csの森林表土での保持においてあまり重要でないことが明らかになりました。自然環境での137Csの動きや生物利用性に及ぼす土壌微生物の影響を更に詳しく理解するために、現在、微生物活動がより活発な季節での調査や、鉱物の少ない落葉層に対する調査を進めています。

本研究の一部は、文部科学省からの受託研究「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性物質の分布状況等に関する調査研究」の成果です。