図1-15 調査地点の位置(線量率の分布マップは、文部科学省が平成23年5月6日に公表したもので、平成23年4月29日現在の換算値)
表1-1 各土壌への137Csと131Iの収着分配係数の測定結果
2011年3月に発生した東日本大震災により、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故が発生し、福島県を中心に広範囲にわたり土壌や森林などが放射性物質で汚染されました。事故直後においては汚染状況を早急に把握する必要があったため、文部科学省は、農林水産省,原子力機構,大学等と連携し、放射線量等分布マップの作成に取り掛かりました。本調査はその関連研究として、事故から約3ヶ月後の深度方向の分布状況についてジオスライサー調査を実施したものです。
調査は発電所から北西方向の川俣町及び浪江町に、当時、131Iが検出された二本松市を加えて11地点を選定し実施しました (図1-15)。調査では最大1 m程度の深さの板状試料(幅10 cm×厚さ2 cm程度)を採取し、土壌記載を行った後、試料を採取しました。試料はゲルマニウム半導体検出器によりγ線放出核種を定量しました。
134Csと137Csはすべての地点で、129mTeと110mAgは線量率の高い地点で検出されました。このうち、放射性セシウムの分布について、砂質土壌を支持層とする地表面土壌では沈着量の99%以上が表層10 cm以内に、黒色土壌 (有機質土壌) や粘土質土壌を支持層とする元農地と推定される土壌では99%以上が表層14 cm以内に存在することが分かりました。濃度分布から見掛けの拡散係数(Da)を求めた結果、放射性物質の種類に関係なく、元農地と推定される土壌(Da=0.1〜1.5×10-10 m2/s)の方が地表面土壌 (Da=0.65〜4.4×10-11 m2/s) より大きく、10-11 m2/s付近であることが分かりました。土壌への131Iと137Csの収着試験(表1-1)では、陰イオンと陽イオンで収着分配係数(Kd)が異なることから、Daも両イオンで異なると見込まれました。しかしながら、すべてのイオンで同程度であり、雨水が土壌へ浸透する際の移流 (流れ) による分散の効果が支配的であったと考えられました。
このように、放射性セシウムの土壌へのKdは全体的に非常に大きく、土壌中の移動はかなり遅いといえます。物質移動はKdと密接に関係し、Kdは構成鉱物やその含有率,有機物含有率などの影響を受ける可能性があります。特に粘土鉱物の種類は収着の可逆性や不可逆性などに影響を及ぼす可能性があります。長期にわたり放射性セシウムの移動を評価するためには、それらの詳細を理解する必要があり、今後、調査する予定です。
本研究は、文部科学省平成23年度科学技術戦略推進費による受託研究「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性物質の分布状況等に関する調査研究」の成果の一部です。