図1-13 福島県内で採取した放射性Csが吸着した土壌のそれぞれの粒度分に含まれる放射性Csの割合
図1-14 鉱物に吸着した2条件の濃度の放射性Csが試薬溶液により溶離した割合
セシウム (Cs) イオンは特定の粘土鉱物に吸着することが知られています。特に、イライトなど粒の細かい層状 (雲母型) の粘土鉱物では、放射性Csが層の間に取り込まれるために酸や他の陽イオンにより溶離されにくいことが知られています。このような強い吸着のため、東京電力福島第一原子力発電所事故により降下した放射性Csは表層付近の土壌中に留まっており、酸や水などにより洗い流すことが難しいと考えられています。そこで、土壌を粒子の大きさごとに分ける分級により粒径の極めて小さい粘土鉱物を除く方法が、除染法として提案されています。しかし、福島県で採取した土壌を用いて分級処理により細粒部分(粘土部分)を除去してもまだ大部分の放射性Csが残っている土壌もあり(図1-13)、その理由は不明でした。
そこで、土壌に含まれる17種類の鉱物について、放射性Csの吸着実験、更に放射性Csを吸着した鉱物については塩化カリウム溶液及び塩酸溶液中に添加する溶離実験を行いました。
放射性Csは、その放射能の強さが現在、我が国の汚染土壌の処理基準である8000 Bq/kgの場合でも、その濃度は土壌中における微量元素濃度の1万分の1程度と極めて低いものとなります。本実験は、放射性Csの濃度を微量元素基準レベルと現在の汚染土壌基準レベルの2条件に模擬して行いました。その結果、相対的に濃度が低い汚染土壌基準レベルにおいては、比較的粒度の大きいカオリナイトやバーネサイトなどの鉱物でも、吸着した放射性Csの一部が溶け出ない状態で存在することを確認しました(図1-14)。
自然環境中の鉱物は、雨水や温度変化などによりゆっくりと構造が乱れ、Csを吸着する安定性の異なるサイトがうまれます。カオリナイトやバーネサイトも同様に、放射性Csを安定に吸着するサイトができますが、もともと結晶構造の層の間に安定な吸着サイトを有するイライト等に比べ、その数は極めて少ないと考えられます。
ところが、汚染土壌基準レベルの放射性Csは他の微量元素に比べ濃度が非常に低いために、その吸着挙動が大きく異なり、鉱物にわずかに存在する安定な吸着サイトだけで相当量吸着しきっていることが分かりました。
土壌に含まれる鉱物の種類と粒径を調べ、細粒部分だけでなく300 μmまでの大きな粒子部分も除去するなどの判断基準を与えることにより、より効果的な除染が可能となります。