図1-11 粘土鉱物の模式図と風化した部分のモデル
図1-12 風化した粘土鉱物のCs吸着機構
東京電力福島第一原子力発電所事故により大量の放射性セシウム (Cs) が環境中に放出されました。現在、国や自治体によって大規模な環境の除染が行われていますが、除染によって生じる除去土壌の処理が大きな負担となることが予想されています。この問題の解決のためには、効率的かつ経済的な減容化法の開発が望まれていますが、いまだに標準となる方法は確立していません。その原因のひとつは、土壌における放射性Csの物理的・化学的吸着様態の理解が進んでいないからであると考えられます。これまでに得られた科学的知見としては、土壌を構成する成分のうち、風化した雲母類粘土鉱物が放射性Csを強力に吸着することが知られていましたが、なぜ強力な吸着が起こるのかは分かっていませんでした。そこで、私たちは第一原理計算手法と呼ばれる原子間の化学結合を電子のレベルから調べるという最も根源的といえる計算手法を用いて、風化した雲母類粘土鉱物による放射性Csの吸着反応を調べました。
まず、吸着反応を計算機上で模擬するために、風化した雲母類粘土鉱物におけるCs吸着サイトのモデルを計算機上に構築し、環境中の放射性Csを吸着した際に生じるエネルギーの変化分を計算しました。その結果、風化がある程度進んでいる場合にのみ、放射性Csが粘土鉱物に吸着し、風化していない粘土鉱物には吸着しないという計算結果が得られたのです(図1-11)。また、この吸着反応に関して、更に詳細な計算を進めた結果、風化した粘土鉱物が放射性Csを吸着するメカニズムが明らかとなりました。通常の雲母類粘土鉱物は、カリウムイオン (K+) のイオン半径に適した空洞を持ちますが、風化によって、その空洞が広がり、K+よりもイオン半径の大きなセシウムイオン(Cs+) に適した空洞ができてしまうためです(図1-12)。
本研究成果により、粘土鉱物における放射性Csの吸着メカニズムが明らかとなりました。今後は、この知見を基に、粘土鉱物から逆に放射性Csを取り除くシミュレーションを行うことで、除去土壌の効率的減容化に繋がる手法の開発に役立てたいと考えています。