3-1 花崗岩体の割れ目形成メカニズムの解明を目指して

−花崗岩体の初期冷却が割れ目の空間分布特性に与える影響−

図3-3 冷却過程の指標となる微組織(ミルメカイト)

図3-3 冷却過程の指標となる微組織(ミルメカイト)

ミルメカイトはカリ長石 (Kfs) と接する斜長石 (Pl) の縁部に発達します。

 

図3-4 微組織の発達幅の勾配に基づく局所冷却速度の導出方法

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図3-4 微組織の発達幅の勾配に基づく局所冷却速度の導出方法

微組織の発達幅の勾配は、ボーリング孔の2地点間の微組織の発達幅の差を2地点間の距離で割った値を示します。

 

図3-5 土岐花崗岩体中の局所冷却速度の空間分布

図3-5 土岐花崗岩体中の局所冷却速度の空間分布

寒色域:微組織の発達幅の高勾配域⇒局所冷却の高速度域
暖色域:微組織の発達幅の低勾配域⇒局所冷却の低速度域

 

図3-6 土岐花崗岩体中の割れ目頻度の空間分布

図3-6 土岐花崗岩体中の割れ目頻度の空間分布

寒色域:低頻度域 / 暖色域:高頻度域

花崗岩体 (結晶質岩体) における地層処分システムの安全評価においては、物質移動経路となり得る割れ目の分布特性を把握することが重要となります。本研究では、割れ目の分布特性を論じる上で、花崗岩質マグマの冷却の様子に着目しました。なぜなら、花崗岩体の冷却の際に生じる岩体内での温度差は、収縮による体積差「冷却歪」をもたらします。この冷却歪が、割れ目を生成する原因であると考えたためです。

私たちの先行研究により、花崗岩体中には冷却様式を知るための指標となるμmスケールの微組織(ミルメカイト)があることが分かっています(図3-3)。冷却歪をもたらす岩体内での局所的な温度差を表すことのできるパラメータとして、ボーリング孔の2地点間の微組織の発達幅の差を2地点間の距離で割った値「局所冷却速度」を定義しました(図3-4)。これは実際には観察できない過去の冷却という現象を定量的に評価する画期的な方法です。

中部地方に位置する土岐花崗岩体中の約19本のボーリングコアから、約670点の微組織を抽出し、それらの発達幅の勾配や割れ目の頻度をマッピングすることで、局所冷却速度の空間分布(図3-5)と割れ目頻度の空間分布(図3-6)を明らかにしました。その結果、割れ目頻度の高い領域で大きな局所冷却速度を持つという相関が認められました(図3-5と図3-6の中央部や領域Zなど)。この相関は、割れ目の発生が局所冷却速度というパラメータを通じ冷却歪という概念によって説明できることを表しており、岩体の初期冷却が割れ目分布を支配する主たる要因のひとつであることを示しています。また同時に、μmスケールの微組織から岩体中のkmオーダーの割れ目分布頻度を定量的に評価できるという新たな知見を得ました。このような岩体中の微組織を用いた割れ目頻度の評価手法の構築は世界初の成果です。

今後は、本研究の成果を踏まえ、更に踏み込んだ花崗岩体の形成過程(特にマグマの貫入・定置過程)の理解を目指します。貫入・定置過程に起因する花崗岩体の岩相や化学組成の相違は、岩体の物性の相違となります。この物性の相違は、断層や割れ目を発達させる構造運動の際に、応力の集中や解放に影響を与えると考えられるためです。このようにして、より分解能の高い割れ目の分布特性及び割れ目の形成・発達メカニズムの解明を目指します。