4-1 核融合炉に適したマルチパラメータ計測法

−レーザー偏光法による磁場・電子密度・電子温度の同時計測法の考案−

図4-2 プラズマ通過中のレーザー光の偏光の変化

図4-2 プラズマ通過中のレーザー光の偏光の変化

直線偏光が楕円偏光に変化しているのがコットン・ムートン効果、楕円の回転がファラデー効果と呼ばれる過程によるものです。

 

図4-3 レーザー偏光法の測定値をCT処理した結果

図4-3 レーザー偏光法の測定値をCT処理した結果

(a)は磁場の分布(b)は電子密度の分布(c)は電子温度の分布を表しています。(b)内の実線はレーザー光路を示しています。

核融合の磁場閉じ込め方式のひとつであるトカマクにおいて、プラズマの高性能化・長時間維持のためには磁場分布の測定及び制御が必須です。レーザー偏光法は代表的な磁場測定法のひとつで、プラズマ通過時のレーザー光の偏光状態の変化を計測します。偏光状態の変化は主に磁場及び電子密度に依存します。レーザー偏光法の測定値と他の方法で測定した電子密度の測定値を用い、コンピュータトモグラフィ (CT) 処理することによって、磁場分布を再構築できます。しかし、核燃焼プラズマのような高電子密度かつ高電子温度の場合、偏光状態の変化が複雑になるため、これまでと同様な手法での磁場測定が困難になると懸念されていました。

レーザー光などの電磁波がプラズマ中を通過する際の偏光状態の変化は、近似的にはファラデー効果とコットン・ムートン効果と呼ばれる二つの変化過程の重ね合わせになります (図4-2)。高電子温度の場合、ファラデー効果による変化過程が弱められ、コットン・ムートン効果による変化過程は強められます。従来、測定値の取り扱いを簡便にするため、コットン・ムートン効果が小さく、両効果が相互作用しないと近似したレーザー偏光法が用いられてきました。本研究では、両効果における電子温度に対する依存性が逆であることに着目し、コットン・ムートン効果が大きいレーザー波長を選ぶこと及び両効果の相互作用を考慮することで偏光測定から電子温度分布の再構築が可能になると着想しました。

ITERに設置予定のポロイダル偏光計の測定条件で、上述の着想を検証しました。偏光法以外のデータとしてはプラズマの表面位置形状のみを既知として、波長119 μmの遠赤外線レーザーを15視線 (図4-3(b)) 用いてCT処理しました。その結果、図4-3に示すように、磁場だけでなく電子密度及び電子温度分布も同時に再構築できることを世界で初めて明らかにしました。これは、磁場測定法としてのレーザー偏光法の常識を変える結果です。

現在のプラズマ核融合実験装置は、多くの計測装置を利用しています。しかし、将来の核融合炉では少数の計測装置で運転することが求められます。レーザー偏光法の測定値から磁場、電子密度及び電子温度という複数の物理量が同時に得られるという本成果は、レーザー偏光法による電子温度計測という新たな計測手法及び将来の核融合炉に適したマルチパラメータ計測法を開拓したものといえます。