7-2 103番元素のイオン化エネルギーの決定を目指して

−表面電離過程を利用したイオン化エネルギー測定法の開発−

図7-5 本研究で新たに開発したオンライン同位体分離器(ISOL)用ガスジェット結合型表面電離イオン源

図7-5 本研究で新たに開発したオンライン同位体分離器(ISOL)用ガスジェット結合型表面電離イオン源

核反応によって生成された核反応生成物は、ガスジェット搬送法によって短時間でアイオナイザー内へと運ばれ、そこでイオン化されます。

 

図7-6 (a)本研究によって初めてイオン化・質量分離された256Lr及びその娘・孫核種256No,252Fm由来のα線スペクトル(b) 256Lrの壊変図 (T1/2:半減期,α:α壊変,EC:電子捕獲壊変)

図7-6 (a)本研究によって初めてイオン化・質量分離された256Lr及びその娘・孫核種256No,252Fm由来のα線スペクトル(b) 256Lrの壊変図 (T 1/2:半減期,α:α壊変,EC:電子捕獲壊変)


原子番号が100を超える元素(超重元素)は、加速器を用いることで作ることができますが、ごく少量しか生成できないうえ、すべて短寿命の同位体であるため、その化学的性質はよく知られていません。この領域の元素を対象とした研究を進めることで、これまで元素周期表という形で理解されてきた元素の化学的性質を、より統一的に理解できることが期待されています。

元素の化学的性質を決定づける原子の電子配置の情報は、第一イオン化エネルギーを実験的に決定することで得ることができます。ところが超重元素の場合、実験に適用できる原子は一度に1個〜数個しかないため、大量の原子(〜1012個)を必要とする共鳴イオン化法などの手法を用いることができず、実験的にこれを求めた例はありませんでした。

私たちは、このような元素の第一イオン化エネルギーを決定するために、表面電離過程を応用した新たな手法の開発を進めています。表面電離過程は高温の金属表面で起こるイオン化過程で、そのイオン化効率は金属表面温度,仕事関数及び対象原子の第一イオン化エネルギーに依存することが知られています。この過程は1個の原子と金属表面間で成り立つため、毎分数個程度しか得ることのできない超重元素領域への適用が期待できます。

少量の原子をイオン化するため、オンライン同位体分離器(ISOL)用ガスジェット結合型表面電離イオン源を開発しました(図7-5)。本イオン源を103番元素ローレンシウム(Lr)に適用したところ、256Lr同位体のイオン化及び質量分離に世界で初めて成功しました。図7-6に示すように、質量数256についてイオンを分離した際に、256Lr及びその娘・孫核種である256No,252Fm由来のα線をはっきりと観測することができました。

Lrは、理論計算からその他のアクチノイド元素に比べて低いイオン化エネルギーを持つことが予想されています。今回、化学的性質が類似していると予想されるルテチウム(Lu)と比較して、イオン化効率が明らかに高い結果が得られました。この結果は、LrがLuと比べて低いイオン化エネルギーを持つことを初めて示したものであり、本手法が、原子番号が100を超える元素のイオン化エネルギー決定に有望であることを示すものです。

現在、本手法による最終的なローレンシウムの第一イオン化エネルギー決定に向けて実験を進めています。