図8-4 拡張炉定数調整法の特徴
表8-1 炉定数調整法 (従来法) との予測精度の比較
新しい型の原子炉を設計するためには、原子炉内の中性子と原子核の反応で決まる炉心の特徴(核特性)を正確に予測する必要があります。核特性は、原子核反応の特徴を示す核データと中性子の振る舞いを解析する計算コードを使って予測することができ、この予測値の精度は、新しい原子炉と同規模で模擬性の高い実験(モックアップ実験)により確認できます。しかし、模擬性の高い実験には多額の経費と実規模の核燃料が必要となるため、その実施には様々な困難が伴います。
この問題を解決するために、高速炉の設計研究では、炉定数調整法と呼ばれる設計手法が利用されてきました。炉定数は、核データを計算コードで利用しやすく変換したものです。炉定数調整法はベイズの定理に基づき、既存施設での多くの実験データを活用して設計に用いる炉定数の精度を向上することにより、新しい原子炉の核特性の予測精度を高める方法です。この方法では、一旦、炉定数を作成すれば、その炉定数と計算コードを使って計算した結果がそのまま設計予測値として利用できるため、すべての核特性に対する設計予測値の整合性が必然的に保たれる利点があります。
一方、原子力機構ではこれまでに、拡張バイアス因子法という新しい設計手法を開発しています。この方法は、既存の手法の中で設計値の最も正確な予測が可能という利点があります。しかし、この方法では、設計対象となる核特性ごとに個別のバイアス因子を求める必要があるため、すべての設計予測値の整合性を保つことに配慮していないという課題がありました。
そこで本研究では、両手法の利点を融合した新しい手法(拡張炉定数調整法)を創出しました。従来の炉定数調整法は、既存の複数実験データに対する予測精度を最善化することを目的として炉定数の確からしさを最大化するように調整するのに対して、新手法は設計対象の個性も考慮して設計予測値の不確かさを最小化するように炉定数を調整するため、設計予測精度を更に向上できます(図8-4)。この新手法を実際の大型高速炉の設計に適用した結果、従来法に比べて予測精度が更に向上することが実証されました(表8-1)。
新手法は、従来の炉定数調整法と拡張バイアス因子法との関係を理論的に明確にするとともに、精度向上の達成に成功しました。今後、効率的に予測精度の向上を図ることのできる核設計手法として、新しい原子炉の設計での活用が期待されます。