8 原子力基礎工学研究

社会ニーズを踏まえ、原子力の基礎・基盤研究を総合的に推進

図8-1 原子力基礎工学研究の役割
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図8-1 原子力基礎工学研究の役割

核工学・炉工学,燃料・材料工学,原子力化学,環境・放射線科学に関する研究を進め、原子力科学技術基盤の維持・強化を通して、様々な役割を果たしています。

 

図8-2 検討中の加速器駆動核変換システム(ADS)

図8-2 検討中の加速器駆動核変換システム(ADS)

1.5 GeV、最大30 MWの陽子ビームによって、熱出力800 MWのADSを運転できます。このADS約4基で、六ヶ所工場規模の再処理で生じる量の長寿命核種であるマイナーアクチノイド(MA)を核変換することができます。

 

図8-3 燃料サイクル安全工学研究施設 (NUCEF) に設置したTRU高温化学モジュール

図8-3 燃料サイクル安全工学研究施設 (NUCEF) に設置したTRU高温化学モジュール

放射能の高い超ウラン元素(TRU)試料を不活性雰囲気で取り扱える世界でも数少ない施設で、酸素ポテンシャルなどの様々な基礎的データを取得しています。

原子力基礎工学研究部門は、我が国の原子力研究開発の科学技術基盤を長期的な視点に立って維持・強化し、新たな原子力利用技術を創出することを使命とし、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(1F)事故への対応をはじめとする社会の様々なニーズに的確に応えることを目指しています(図8-1)。このため、枢要分野である核工学・炉工学,燃料・材料工学,原子力化学,環境・放射線科学に関する研究を進めています。また、原子力エネルギー基盤連携センターを通して産業界との連携を推進しています。

核工学・炉工学研究では、最先端の理論・実験・計算シミュレーションを駆使し、評価済み核データファイルJENDLの整備や核データ取得技術の開発、原子炉の設計・挙動解析手法の高精度化(トピックス8-1)とともに、長寿命核種を短寿命化するための核変換技術の研究(図8-2)等に取組んでいます。さらに、この分野で培った知見を用いて、1Fにおける崩壊熱分布の評価を行いました(第1章トピックス1-17)。

燃料・材料工学研究では、原子炉や核燃料サイクル施設における核燃料や構造材料の挙動に関する研究開発を進めています (図8-3)(トピックス8-3)。また、1F事故で生じた溶融燃料の特性把握や、炉心や燃料プールへの海水注入で懸念される材料腐食の検討等においても、この分野の研究で蓄積された知見が役立てられています。

原子力化学研究では、再処理プロセスに関する基礎基盤データの整備,放射性廃棄物から長寿命核種等を分離回収する方法,極微量の核燃料物質の検出方法の開発等を進めています(トピックス8-48-58-68-7)。特に、国際的な核不拡散の取組みへの貢献など、社会との関わりを強く意識しています。また、上記の技術は、1Fにおける汚染水処理や、環境中の有害物質除去等に役立てられています。

環境・放射線科学研究では、放射性物質等の環境中での移行挙動の研究(トピックス8-88-9)や、最新科学に基づく放射線防護の研究(トピックス8-2)等を進めています。また、1Fから放出したセシウム137の海底堆積物及び森林表土における挙動を推定・評価し、今後の推移の予測等に役立てていきます (第1章トピックス1-11-8)。

産業界との連携では、腐食に強い新しい材料の開発や、加速器中性子を用いて医療診断用放射性同位元素を製造する手法の開発等を進めています。