8-3 再処理施設用材料の寿命予測に向けて

−ネプツニウムを含む沸騰硝酸中におけるステンレス鋼の腐食特性の評価−

図8-7 開発した分光分析機能を付加した電気化学試験セルの外観

図8-7 開発した分光分析機能を付加した電気化学試験セルの外観

試験セルには、溶液加熱用透明ヒータと電位測定用電極と溶液の分光分析用光学セルが組み込まれており、遠隔操作により試験を実施します。使用する溶液量は約15 cm3です。

 

図8-8 ステンレス鋼(SUS310Nb)の腐食電位に及ぼす温度の影響

図8-8 ステンレス鋼(SUS310Nb)の腐食電位に及ぼす温度の影響

微量のNpが硝酸溶液に含まれることにより、腐食電位が上昇して腐食が促進することや、その挙動がNpの原子価と温度にも依存することも明らかにしました。

 

図8-9 Npの原子価変化に及ぼす温度の影響

図8-9 Npの原子価変化に及ぼす温度の影響

溶液温度上昇により、五価のネプツニウム(Np(V))は六価のネプツニウム(Np(VI))に酸化されるため、腐食が加速されることが示唆されます。

使用済核燃料に含まれるU/Puを再び核燃料へと再利用するために、国内外において核燃料再処理が推進されています。再処理施設においては、沸騰硝酸を用いる上に、腐食を加速する金属イオンが混入するために、機器材料のひとつであるステンレス鋼の腐食が問題となります。

金属イオンの中でも、Puやネプツニウム (Np) は沸騰硝酸溶液中で酸化され、高次な酸化性イオンとして働き腐食を加速する作用があることが知られています。さらに、PuやNpは放射性物質であることから、実験において取り扱える量にも制限があります。

私たちは、沸騰硝酸溶液中におけるNpの存在状態並びにステンレス鋼の腐食挙動を評価する目的で、原子価測定と電気化学測定を同一セル内で実施可能な分光分析機能付き少量試験装置を開発し、ステンレス鋼の腐食機構の解明を目指しました。

本試験装置は、(1)少量(約15 cm3)の取扱溶液量(2)同一溶液の分光分析及び電気化学測定(3) 沸騰状態における安定した電気化学測定などの特徴を有しています(図8-7)。用いる溶液量が少ないため、試験片は面積の小さい(φ2 mm)絶縁被覆付きの円筒型をしています。

図8-8に示すようにステンレス鋼の腐食電位は、Npが含まれると大きく上昇し、また溶液温度が高くなるほど上昇しました。硝酸中では腐食電位が高くなるほど腐食速度が大きくなることが知られており、ステンレス鋼の腐食はNpの存在により大きく加速されることが明らかとなりました。また、低次な酸化状態であるNp(V)は、腐食電位は溶液温度の上昇とともに上昇するのに対して、高次な原子価状態であるNp(VI)は、温度に対してあまり変化しないことが分かります。

図8-9にNp(V)に原子価調整したNp含有3 mol/dm3硝酸を所定の温度に加熱し、分光分析により測定したNpの原子価変化を示します。温度の上昇とともに、高次な原子価状態であるNp(VI)が増加することが明らかになりました。

同一溶液を用いた二つの異なる試験より、硝酸の酸化力により生成するNp(VI)がステンレス鋼の腐食電位を上昇させ、腐食を加速することを明らかにしました。

本研究は、独立行政法人原子力安全基盤機構からの受託研究「平成21〜23年度再処理施設における耐硝酸材料機器の経年変化に関する研究」の成果の一部です。