8-7 単一粒子のPuが精製された時期を明らかにする

−極微量分析技術開発によりIAEAの核活動監視機能に貢献−

図8-18 精製時期測定技術の開発と測定手順

図8-18 精製時期測定技術の開発と測定手順

Pu単一粒子の作製法や化学分離法など開発した技術を組み合わせることにより、極微量Pu粒子の精製時期を推定することができました。

 

図8-19 Pu標準溶液から作製したPu単一粒子

図8-19 Pu標準溶液から作製したPu単一粒子

推定したPu精製時期の正確さを評価するため、精製時期が既知でμmサイズの単分散Pu酸化物粒子(右)を作製し、拾い出す技術を開発しました。得られたPu単一粒子(左)の精製時期を測定しました。

 

図8-20 243Am添加法によるPu単一粒子の精製時期測定結果

図8-20 243Am添加法によるPu単一粒子の精製時期測定結果

8個のPu単一粒子を分析して得られた精製時期が実際の経過年、3.92年に対して平均0.11年(41日)のずれで求めることができました。

国際原子力機関 (IAEA) では、核開発などの未申告の原子力活動を探知するために、原子力関連施設の床などからちりなどを拭き取って採取し、極微量 (10-15〜10-12 g)のU及びPuの量や同位体比を分析しています。

我が国の核物質管理技術の向上のための分析技術として、Pu粒子を個別に拾い出し、Puが精製された時期を正確に推定する技術を開発しました(図8-18)。241Puは一定の割合 (半減期14.35年) でβ線を放出して241Amに壊変するので241Am/241Pu原子個数比の正確な測定からPuの精製経過年が得られます。採取した試料には異なる場所から放出されたPuが混在している場合も多いので、10-12 g以下の極微量Pu粒子を個別に分析する必要があります。また241Amと241Puは質量数が同じであるため、元素として化学的に分離しないと質量分析ができません。このような極微量試料を対象とした時期推定技術は今までになく、精製からの時期が短いと241Am/241Pu原子個数比が低いので従来の方法では正確な分析値が得られません。さらに、開発した分析技術の正確さや精度を評価するためには標準試料が必要ですが、精製時期が最近で既知のPu単一粒子はありませんでした。そこで、まずPuを精製してμmサイズの単分散Pu酸化物粒子 (図8-19) を作製する技術と、電子顕微鏡に取り付けた極細の針で粒子を一つずつ拾い出す技術を開発しました。次に、極微量 (10-15〜10-12 g) のPuとAmの化学分離並びに同位体比測定技術を開発しました。241Amをほとんど含まない243Amを試料に添加してから試料の243Am/239Pu比と、化学分離後のPuやAmの同位体比を誘導結合プラズマ質量分析装置 (ICP-MS)で測定することで、10-12 gのPu粒子の241Am/241Pu比を正確に求めることができました。得られた精製時期は、実際の時期から平均0.11年 (41日) しかずれていませんでした(図8-20)。このように4年前に精製されたPu粒子1粒からでも、原子力活動の痕跡を探知できる優れた分析技術の開発を通してIAEAの核活動監視機能に国際貢献ができるものと考えています。

本研究は、文部科学省からの受託研究「保障措置環境試料分析開発調査」の成果の一部です。