図8-23 大気と深層土壌の14C存在比の変化
図8-24 深層土壌における入れ替わり速度別の炭素の存在量
土壌は大量の炭素を有機物として蓄えており、大気や植物と絶えず炭素を交換することで、地球上での炭素の循環に重要な役割を果たしています。近年、土壌炭素の多くが表層土壌(表面から20 cmまで)よりも深い深層土壌(20〜60 cm)に蓄えられていることが分かってきました。しかし、深層土壌の炭素は平均の年代が数100年から数1000年前と古いことから、鉱物との結合などによって安定な状態で存在していると考えられ、大気との炭素の交換への寄与という観点では注目されてきませんでした。
私たちは、放射性炭素(14C)を利用して、深層土壌の炭素の動きの解明を試みました。14Cには、宇宙線により大気圏で常に作られているもの(自然由来)と、主に1960年代前半に行われた核実験によって作られたもの(核実験由来)があります(図8-23(a))。大気中の14Cは、普通の炭素と同じように、光合成によって植物に有機物として固定され、土壌へと入ります。この有機物が土壌の中で留まっている時間が長いと、14Cの存在比は5730年の半減期で減っていきます。一方、核実験由来の14Cを含んだ有機物が付加された場合は14Cの存在比が増加します。したがって、もし深層土壌に数10年程度で比較的速く大気と交換している炭素が相当量存在するならば、核実験由来の14Cの混入によって、1960年以降に深層土壌で炭素の14C存在比が増加し、その変化を調べることで炭素交換量を推定できると考えました。
米国カリフォルニア州の二つの森林で1958〜2009年の期間に数回、同じ場所で採取された深層土壌試料の14Cを分析しました。鉱物と結合した有機物で14C存在比の増加が見られ、その増加が大気中での増加よりも20年以上遅れて現れていることが分かりました(図8-23(b))。また、モデル解析の結果、この有機物に含まれる炭素の約4〜7割が数10年で入れ替わっていると推定されました。さらに、鉱物と未結合の有機物や、2009年の土壌から放出されたCO2にも、核実験由来の14Cの混入が確認されました。
この結果から、土壌の深層には大気と交換している多くの炭素が存在していること(図8-24)、この交換プロセスは環境の変化に対して20年以上遅れて応答しうることが明らかになりました。
本成果は、地球炭素循環の理解や環境変化の予測精度の向上につながることが期待されます。