図9-1 高温ガス炉の概要:特長,利用,HTTRの主要仕様及び主要技術
私たちは、低炭素社会の実現を目指して、本質的に安全な高温ガス炉とその利用技術に関する研究を進めています。高温ガス炉は、安定なヘリウムガスを用いて、950 ℃もの高温の熱を取り出すことができます。熱は高温であればあるほど、同じ量のウランで多くの電気や水素を供給できます。
軽水炉の出口温度300 ℃に比べ、より高温の熱を取り出すことができるのは、主に三つの世界最先端の国産技術が開発できたためです。一つ目は、ウラン燃料の核分裂で生成される放射性物質を閉じ込める燃料被覆材に2500 ℃でも溶融しないセラミックスを用い、ウラン燃料をセラミックスで四重に包み、直径約1 mmの小さな燃料粒子を作る技術です。二つ目は、中性子を減速するための黒鉛を製造する技術です。一般的に黒鉛の材料特性は、すべての方向に均等ではありません。つまり、すべての方向に優れた材料特性及び耐照射性を有する大きな黒鉛ブロックを製造する技術です。三つ目の技術は、耐熱性・耐腐食性の超合金技術です。これら核となる技術と高温構造設計技術,ヘリウムガス取扱技術等によって、2004年に950 ℃の熱を取り出すことに世界で初めて成功しました (図9-1)。
高温ガス炉は、発電のみならず、燃料電池自動車用や製鉄還元用の水素,工業用のプロセスヒート等の供給源として、さらに、排熱を地域暖房や海水淡水化にも使えます。温排水の元凶である環境に捨てる熱量も、軽水炉の67%を20〜30%へ、大幅に減らすことができ、次世代のエネルギーソースとして大変有力です。特に高温ガス炉を用いた水素製造について、化学反応を利用して水を分解して水素を製造する熱化学法ISプロセスの研究を進めています。
原子炉の安全性については、事故が起きても、特段の機器・設備なしで、燃料被覆材の異常な温度上昇,腐食,可燃性気体の爆発による破損を抑える物理現象が自然に働くことによって、つまり、高温ガス炉の自己制御性によって、公衆・社会・環境に有害な影響を及ぼさない本質的安全性を持たせることが可能です。東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故以降、強く求められる「公衆の信頼を得ること」ができる力を秘めています。
現在、新興国,途上国向けの安全性,経済性に優れた小型高温ガス炉の概念設計を完成させ、高温ガス炉水素製造システムの安全設計方針の原案を提示するとともに、熱化学法ISプロセスの効率向上を目指した研究開発を進めています(トピックス9-1,9-2,9-3)。