図9-5 水素製造法ISプロセスの概要
図9-6 イオン交換膜を用いたヨウ化水素酸の濃縮
図9-7 H+透過選択率(t+)の温度依存性:実験値と理論式の比較
高温ガス炉で得られる高温熱で水素を製造する化学プロセスの研究開発を行っています。この化学プロセスはISプロセス(図9-5)と呼ばれ、ヨウ素(I)と硫黄(S)を用いた化学反応を組み合わせ、炭酸ガスを発生させることなく、水を熱分解して水素を製造します。ISプロセスの研究開発において重要な課題のひとつが水素製造効率を向上させることです。
熱効率を向上させるには、ヨウ化水素酸 (HI: ヨウ素の化合物)溶液をより低エネルギーで濃縮することが必要です。そこで私たちは、水素イオン(H+)を選択的に通すイオン交換膜を用いてHIを濃縮する電解法の研究を行っています(図9-6)。これまで、私たちが開発した放射線グラフト重合法で製膜した全く新しいイオン交換膜 (放射線グラフト膜)を用いて、イオン交換膜の性能を向上させることに成功し、濃縮エネルギーを低減できることを明らかにしました。
現在は、より高性能な放射線グラフト膜を製作することを目指しており、そのためには膜中のイオンの透過機構を解明する必要があります。そこで、HIの濃縮特性を予測可能な膜透過数理モデルを通じて、透過機構を明らかにすることを試みました。
まず、イオン透過の駆動力が膜に対する電位勾配であるとした数理モデルを構築しました。モデルから、実験的に観測可能な膜性能の指標であるH+透過選択率について、膜中のH+及びヨウ化物イオンの含有量や拡散係数の関数として表される理論式を導出しました。この理論式が実験結果を精度良く再現することを確認し、構築した数理モデルが妥当であることを示しました(図9-7)。
現在の数理モデルはHI溶液濃度に対する影響に関して更に改善する必要があります。今後は、実験を積み重ね改善を図るとともに、グラフト重合に用いる高分子に新たな官能基を導入するなど膜のHI溶液に対する親和性を変化させることで、イオン含有量や拡散係数を調整し、更に高性能な膜開発に取り組んでいく予定です。