図9-3 原子炉施設と水素製造施設の配置概念
図9-4 水素製造施設での除熱喪失時の原子炉挙動
高温ガス炉から取り出される熱を用いた水素製造の実用化には、十分な安全性確保が不可欠であるとともに、ユーザー要請として水素製造施設を高圧ガス保安法等の下で一般産業施設として建設することが求められています。
本研究では、熱化学法ISプロセス(ISプロセス)による水素製造施設に焦点を当て、水素製造施設の原子炉施設への接続に当たり設計上考慮すべき事象について、安全性確保の要件及び水素製造施設を一般産業施設として建設可能とする条件からなる安全設計方針案やこれらを充足する原子炉施設の設計方針を検討しました。
原子炉施設外での可燃性ガス漏えい,火災・爆発の発生に対し、事故想定箇所と防護対象間の十分な離隔距離確保,隔離弁設置等の対策により、原子炉施設の安全機能を損なわないこと、また、原子炉施設外での有毒ガス漏えいに対し、早期検知,事故想定箇所と防護対象間の十分な離隔距離確保等の対策により、運転員等を有毒ガス暴露から防護することを原子炉施設の設計方針として定めました(図9-3)。
水素製造施設を一般産業施設として建設できる条件には、水素製造施設への放射性物質移行を抑制できること、水素製造施設の状態によらず原子炉の通常運転を継続できることを提示し、冷却材から放射性物質を取り除く設備の十分な容量確保や、冷却材温度変動を緩和する冷却設備設置を提案しました。
提案した設計方針について、HTTRにISプロセスによる水素製造施設を接続したHTTR-IS施設を対象に技術的成立性を評価しました。その結果、可燃性ガスの火災・爆発では、コンビナート等保安規則に基づく離隔距離(約40 m)が確保可能であり、有毒ガス侵入では、米国国立労働安全研究所規定における許容濃度を満足することを確認し、原子炉施設の安全性を確保できることを示しました。また、水素製造施設中のトリチウム量を法令限度以下に抑制でき、水素製造施設の異常時においても原子炉出力や冷却材温度を通常運転時の許容変動幅未満に抑制できることを確認し(図9-4)、水素製造施設が一般産業施設として設計可能であることを示しました。
本安全設計方針案は水素製造施設のみならず、天然ガス改質プロセス等、他の化学プラントの高温ガス炉への接続時にも適用可能です。
今後は、日本原子力学会「高温ガス炉の安全設計方針」研究専門委員会の下で安全設計方針案の妥当性について評価を受けるとともに、IAEA等の下での国際標準化を目指します。