図9-2 小型高温ガス炉の設計目標と設計結果
私たちは、高温ガス炉の基盤技術を確立するために、HTTRが設計通りの性能を有していることをHTTR試験で検証するとともに、商用化を目指した高温ガス炉の設計に必要なデータを合わせて取得できるように、HTTR試験計画に反映させてきました。設計研究では、開発途上国等による2020年代の実証的高温ガス炉システムの建設を目指して、送電網が整備されていない中小都市向けの熱出力50 MWの小型高温ガス炉の概念設計を2010年から実施してきました。HTTRの設計を基に、HTTR試験から得られた設計の裕度等に関するデータを設計に反映させ、特段の研究開発なしで、ユーザーの要請に応えることが可能なHTTRより性能を向上させた設計を完成させました(図9-2)。
炉心核熱設計では、経済性向上のため、濃縮度の異なる燃料及び可燃性毒物の炉内配置を工夫することにより、燃料温度分布を平坦化する出力分布を実現し、濃縮度数3種類(HTTRの12種類の1/4)及び平均出力密度3.5 MW/m3(HTTRの2.5 MW/m3の1.4倍)を実現しつつ、燃焼期間730日間を通じて燃料最高温度を制限温度以下に保つことを達成しました。
構造設計では、中間熱交換器の大型化のため、伝熱管口径を増大しつつ管内冷却材流速上昇を図ることにより伝熱性能を向上させて、伝熱面積増大に伴う伝熱管自重に対する強度を確保し、交換熱量20 MW (HTTRの2倍) を達成しました。
系統設計では、ユーザーの要請に応えることができるように、熱のカスケード利用により、蒸気タービン発電と地域暖房への低温蒸気供給,工業プロセスへの高温蒸気供給、更に将来的にガスタービン発電や熱化学法による水素製造の実証試験が可能な系統を設計しました。
安全設計では、一層の安全性向上を目指して、残留熱を除去する炉心間接冷却型の炉容器冷却設備の受動設備化を図りました。また、1次冷却設備二重管破断事故及び蒸気発生器伝熱管破損事故についての安全予備評価を実施し、燃料温度,原子炉圧力容器温度,黒鉛酸化量,周辺公衆の放射線被ばく量等がHTTRの判断基準等をもとに定めた判断基準を満足することを確認しました。
設計を進めてきた小型高温ガス炉を関係国に提示した結果、カザフスタン共和国では、2011年に「原子力に係る国家計画」が策定され、この炉を基にした小型高温ガス炉の建設計画が組み込まれています。