1-14 事故後の原子炉容器を燃料取出しまで維持していくために

−原子炉容器用鋼の腐食への放射線の影響と腐食抑制策−

図1-30 γ線照射下での材料腐食試験の状況

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図1-30 γ線照射下での材料腐食試験の状況

鋼鉄製の原子炉格納容器の内部は海水成分を含む水と高い線量の放射線にさらされています。これを模擬するため、希釈した海水中に鋼鉄製の試験片を入れγ線を照射しながら腐食試験を行っています。

 

図1-31 格納容器鋼材のγ線照射下腐食試験の結果

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図1-31 格納容器鋼材のγ線照射下腐食試験の結果

気相部の窒素置換や薬剤の添加により、鋼材の腐食を抑える方法を調べました。ヒドラジン添加と窒素置換を併用した場合において、腐食抑制効果が高いことが分かりました。

東京電力福島第一原子力発電所 (1F) 事故では、事故直後に原子炉圧力容器を冷却するために1〜3号機に海水・ダム水の注入が行われました。原子炉圧力容器は原子炉格納容器 (PCV) と呼ばれる鋼鉄製の容器の内部に設置されています。この容器の鋼材(炭素鋼ともいう)は、水との長期間の接触により腐食して錆(酸化鉄)が生成し、強度の低下や穴が開くことが懸念されます。さらに、PCV内部の高い線量の放射線によって水が分解し、過酸化水素等の化学的に活性な物質が生成して、腐食を加速する可能性があります。PCVは、内部に融け落ちた核燃料等の放射性物質が外部に漏れ出ないように閉じ込めておく重要な機器であるため、核燃料等を取り出すまでの長期間にわたり腐食を抑えておく必要があります。

図1-30にγ線照射下における材料腐食試験の状況を示します。実際のPCVとほぼ同じ材料であるSGV480鋼の試験片を、フラスコ内で希釈した人工海水中に浸漬してγ線の照射を500時間行いました。γ線の強さはPCV内での実測に近い線量(約0.2 kGy/h)と1桁以上高い線量(約4.4 kGy/h)の2条件としました。

図1-31に照射下腐食試験の結果を示します。縦軸の腐食減量とは腐食による試験片の重量減少であり、試験後に腐食により生成した錆を取り除き元の試験片の重量からの減量を求めました。左端はフラスコ内の気相部を大気中とした場合の照射下腐食試験の結果です。1F事故以降、水素爆発防止を目的にPCV内に窒素封入が行われています。この環境を模擬して、気相部を窒素で置換しながら試験した結果を中央に示します。気相部を窒素雰囲気とすると腐食減量が低下しました。これは、窒素置換により気相部の酸素分圧が下がるため、希釈海水中の溶存酸素濃度が下がり、腐食の進行が抑えられたと考えることができます。さらに、酸素を除去する性質のあるヒドラジンという薬剤の添加と窒素置換を併用した場合を右端に示します。これにより腐食減量を更に下げられることが分かりました。以上の結果から、現在、窒素が封入されヒドラジンの注入も実施されているPCVの腐食は十分に抑制されていると推測できます。