1-18 炉心冷却後もヨウ素131放出が継続した理由を探る

−原子炉建屋等の地下に蓄積した汚染水からのヨウ素131放出−

図1-37 R/B,T/B内の汚染水の蓄積状況及び汚染水からの131I簡易放出モデル

図1-37 R/B,T/B内の汚染水の蓄積状況及び汚染水からの131I簡易放出モデル

1F事故では、原子炉建屋等の地下に汚染水が蓄積しました。汚染水中に無視できない量の131Iが溶存しており、気液分配による放出が無視できないと考え、汚染水からの放出(赤字部分)をモデル化しました。

 

表1-3 汚染水中に溶存した131Iの対炉心内蔵量比

表1-3 汚染水中に溶存した131Iの対炉心内蔵量比

 

図1-38 大気中に放出された131Iの放出率

図1-38 大気中に放出された131Iの放出率

簡易放出モデルは、3月23日と3月30日の冷却水減少と燃料温度上昇と考えられる放出率増加を再現していませんが、3月17日以降の汚染水からの放出、3月26日の真水注入による放出率低下をほぼ再現しました。

2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故では、炉心の冷却過程で原子炉建屋等の地下に多量の汚染水が蓄積しました(図1-37)。本研究では、公表された汚染水の体積やヨウ素131(131I)の濃度に関する情報をもとに、汚染水中の131I溶存量を推定しました。その結果、炉心内蔵量に比べて無視できない量の131Iが溶存することが明らかになりました(表1-3)。

燃料から放出した131Iの大部分はI-として水中に溶けますが、酸性化するとその一部はI2となり、気液分配によって気相中に移行するため、建屋換気により環境中へ放出される量が増加する可能性があります。

環境中への131I放出量の推定については、これまで、MELCORのような解析コードを用いる方法,環境中モニタリングデータからSPEEDI等を用いて逆算する方法が用いられてきました。131Iの積算量については、両者の結果はほぼ一致していましたが、MELCORは有意な放出量が計算されなくなったために3月17日で計算が終了したのに対し、SPEEDIによる逆算は3月26日頃まで有意な放出が継続していたことを示しました(図1-38)。

本研究では、原子炉建屋等の地下汚染水からの131I放出に関する簡易放出モデルを作成し、SPEEDIが予測した3月17日以降の放出の再現を試みました。計算では、汚染水のpHが3月27日に測定された7.1で継続したとするとともに、崩壊熱がすべて汚染水に与えられると仮定して発生する水蒸気量を建屋の換気率に反映しました。また、3月26日に炉心冷却水が海水から真水に変更された際、比重の違いによって階層化して、汚染水表面近くの131I濃度が減少することを考慮しました。その結果、SPEEDIの傾向をほぼ再現できました(図1-38)。

MELCOR等の解析コードは、格納容器内の汚染水からの131I放出はモデル化していますが、原子炉建屋等の汚染水からの放出はモデル化していないため、同コードを1F事故解析に適用する場合は、それらも新たに考慮することが望まれます。今後、壁等に一旦沈着した131Iの再蒸発や再浮遊、真水が注入された際の汚染水の階層化等に関するより詳細な検討を通じて、本研究で作成した簡易放出モデルを精緻化するとともに、MELCOR等の解析コードの高度化に貢献したいと考えています。