図1-9 放射性Csの土壌中の濃度分布の例
図1-10 サーベイメータによる地上測定の平均空間線量率比の変化傾向
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故で環境中に放出された放射性物質による人や環境への影響を正しく評価し、適切な対策を講じるために、私たちは、事故後の2011年6月から文部科学省及び原子力規制委員会原子力規制庁から受託し、定期的に空間線量率等の調査を実施し、詳細な空間線量率分布マップ及び放射性セシウム(Cs)の土壌沈着量分布マップを作成しています。この受託事業の一環として、土壌に沈着した放射性Csが、現在土壌中でどのような濃度分布になっているのか、深度別に土壌試料を採取して放射能を分析するスクレーパープレート法により調査しました。
2013年11月に実施した調査において、放射性Csは、ほとんどの調査地点で土壌の表層付近に集中して留まっており、その濃度は図1-9に示した分布のように、多くの調査地点で指数関数的に減少していることが分かりました。また、調査実施時期による濃度分布の変化傾向に注目すると、わずかずつですが、深度方向に移行してきていることが分かりました。
次に、本受託事業のサーベイメータによる空間線量率測定の結果を図1-10に示しました。各調査実施時期で得られた空間線量率の平均値を1F事故直後の空間線量率の平均値で割った平均空間線量率比の経過日数による変化は、放射性Csの物理減衰よりも早く減少していることが分かりました。本委託事業の別の調査で得られた結果は、土壌に沈着した放射性Csの移流(水平方向への移動)が小さいことを示しているため、この原因は放射性Csの土壌中の濃度分布の変化によるものと考えられます。
放射性Csの土壌中の濃度分布の変化傾向を考慮して、物質内での放射線の挙動を模擬できるPHITSコードによるシミュレーションを実施し、これを考慮した平均空間線量率の減衰曲線を図1-10に追記しました。この結果は、サーベイメータによる地上測定の結果と良く合うことが分かりました。わずかずつですが、放射性Csが時間とともに土壌の深度方向に移行していくことにより、土壌による遮へい能力が増えることになり、その結果、地上での空間線量率が減少することになります。
本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託事業「平成25年度東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の長期的影響把握手法の確立」の成果の一部です。