1-3 水底の放射性物質濃度分布を可視化

−プラスチックシンチレーションファイバを用いた農業用ため池の測定−

図1-7 PSFを用いた水底の放射線測定システム

図1-7 PSFを用いた水底の放射線測定システム

1 mmφのPSFを15本束ねています。

 

図1-8 福島市内のため池における水底の放射性Cs分布マップ例

図1-8 福島市内のため池における水底の放射性Cs分布マップ例

PSFの測定は5 m間隔で行い、測定結果を内挿法の一種であるKrigingにより補間しています。土壌試料を採取し測定した結果と良く一致しています。

福島県内では農業用のため池が約3700箇所あり、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故以来、放射性セシウム(Cs)による汚染状況が懸念されています。ため池は、上流の集水域に降った雨を集めるものであり、その水は農業用水として使われます。これまで、ため池底の土壌の放射性Csの濃度を測定するには、土壌をサンプリングし実験室で放射能を測定する手法が一般的でしたが、サンプルが廃棄物になってしまうこと、ため池全体の分布を見ることは難しいことから、一度に幅広い範囲を直接測定する手法が求められています。

私たちは、1F事故以来、プラスチックシンチレーションファイバ (PSF) 検出器の研究に取り組んでいます。今回、一度に長い距離の測定が可能であること,水中でも測定が可能なこと,測定対象物の形に応じて形が変えられることという特徴を生かし、ため池底の測定に応用しました。PSFを用いた水底の放射線測定システムの構成について、図1-7に示します。PSFの検出部には、コア(中芯部)に放射線を感じて発光するプラスチックシンチレータを使用した光ファイバを採用しています。光ファイバの両端には光センサー(光電子増倍管)を配置し、入射された放射線の数を数えます。また、両端に備えた光電子増倍管の放射線の入射による発光を検知する時間差により検出部の発光位置を特定することができます。PSFによる計数率から水底の放射性Cs濃度への換算は、モンテカルロ計算コードにより値付けをした水中用γ線スペクトロメータとの比較により行いました。放射能への換算の条件としては、ため池底の土壌の表層から10 cmに放射性Csが均一に分布しているとみなして行いました。本手法による放射能への換算結果と水底の土壌コアを分析した結果を比較するとおおむね一致し、本手法の信頼性が確認できました。本手法は、1000 m2程度の大きさのため池を4日間程度 (1チーム5人として)で測定することができます。PSFで測定した結果は、放射能分布マップとして表示できます(図1-8)。この例では、PSFの測定を5 m間隔で行い、測定結果を市販のGIS(Geographic Information System: 地理情報システム)ソフトウェアを用いて補間しました。また、同時に採取した土壌試料を分析した結果と良く一致していることが分かります。

本手法は、私たちが水土里ネット福島(http://www.midorinet-fukushima.jp)と技術指導契約を締結し、技術の民間移転を行っています。今後、福島県内のため池の放射性物質対策を実施する際に本手法の利用について、必要な技術開発及びサポートを行っていく予定です。