1-6 放射性セシウムの環境中での移行挙動を調べる

−大柿ダム湖を対象とした事例研究−

図1-13 大柿ダム流域((a):国土地理院の数値標高モデル(DEM)データに基づき作成)と(b)陸域解析モデルによる土砂移動量の算定結果

拡大図(168KB)

図1-13 大柿ダム流域((a):国土地理院の数値標高モデル(DEM)データに基づき作成)と(b)陸域解析モデルによる土砂移動量の算定結果

雨で流された陸域の土砂は河川やダム湖などの水系に流入しますが、ほとんどの流入土砂はダム湖底に堆積する結果となりました。放射性Csの流出防止の観点からもダムの役割が重要であることが分かります。

 

図1-14 大柿ダム湖の解析の一例(c)砂の堆積(d)シルトの堆積(e)粘土の堆積(国土地理院の数値標高モデル(DEM)データに基づき作成)

拡大図(306KB)

図1-14 大柿ダム湖の解析の一例(c)砂の堆積(d)シルトの堆積(e)粘土の堆積(国土地理院の数値標高モデル(DEM)データに基づき作成)

ダム湖に流入した土砂は、その粒径の違いによって堆積する場所や流出しやすさが異なっています。砂はダム湖の入り口付近に堆積し、シルト(砂と粘土の中間の粒径のもの)は中央に堆積しています。粘土はあまり堆積せず下流に流出しています。

東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故直後に地表に沈着した放射性セシウム(Cs)は、土壌、特に粘土粒子に強く吸着する性質があります。その移動は、強雨時に土砂とともに表流水などによって広範囲にわたって起こる自然現象でありその制御は難しいですが、ダムやその関連施設を適切に管理することで、発生土砂を堆砂させるか流砂とするかの選択が可能となると考えられます。

そこで本研究では、私たちが開発・整備している陸域解析モデルと河川・湖水解析モデルを用いて、1F事故直後に多くの放射性物質が沈着したと考えられる請戸川流域にある大柿ダム湖での浮遊土砂及び放射性Csの強雨時の挙動を把握することを目的に、数値的な解析を行いました。

図1-13は陸域解析モデルを用いて、大柿ダム流域でどれだけの土砂が河川やダム湖などの水系に流入し、どれだけの土砂がダム湖に堆積するかをシミュレーションしたものです。図よりほとんどの流入土砂がダム湖底に堆積する結果となりました。

図1-14は、二次元の解析モデルを用いて、ダム湖内の土砂堆積量を解析したものです。土砂の粒径の違いによって堆積場所や流出しやすさが異なるとの結果を得ました。更に実際の大雨時における土砂・放射性Csの挙動を解析し、実測値と整合していることも確認しています。これらの結果から、大雨時には上流から流入した浮遊土砂と放射性Csの一部は下流に流出しますが、多くはダム湖内で沈降、堆積することが分かりました。

また、仮想的にダム湖の水位を上昇させた計算を行うことにより、水位の管理による土砂と放射性Csの流出の制御の効果について検討しました。水位を上昇させると、粘土のような微粒子成分に付着した放射性Csは水中に滞留している時間が長くなり、いずれは(水位が低い場合に比べより多く)堆積することが予見されました。今後観測に基づく結果との更なる比較を行い、本解析法の検証と改良を進める予定です。