図1-18 溶液中の放射性Cs濃度の新たな定量法
表1-1 学校プール水の除染処理水への応用
東京電力福島第一原子力発電所事故により放射能汚染を受けた地域では、継続的な水環境のモニタリングや除染活動が行われており、それらの現場では水溶液中の放射性セシウム (Cs) 濃度を簡便に測定する方法が求められています。溶液中の放射性Cs濃度の測定にはゲルマニウム半導体検出器が一般的に用いられていますが、この装置は高価なこと,持ち運びに不便なこと,商用電源が必要なことなどから、現場での使用には不向きです。
そこで私たちは、現場で簡便に使えるCsの放射能測定法として、Csを吸着するフィルタ(Csディスク)と携行用のGMサーベイメータを併用した新たな測定法を考案しました(図1-18)。この方法は(1)水試料の通水によりCsディスク上に溶液中の放射性Csを吸着させ(2)Csを吸着したディスクのβ線計数率をGM サーベイメータにより測定し(3)β線計数率とCsの換算係数を基にCsの放射能濃度を算出することを原理としています。Csディスク(住友スリーエム株式会社製、3MTM エムポアTM ラドディスク セシウム)は、Cs吸着剤をフィルタの母材中に保持したものです。
この方法は、GMサーベイメータのβ線検出感度が高いこと,携行用の機器類のみを使った簡便な方法であること,汚染核種が134Csと137Csに限定されている試料に適用可能であることなどの特徴を有しています。また標準線源を用いて求めた137Csの換算係数は134Csよりも大きく、β線計数率に137Csの換算係数を掛ければ実際よりも大きな放射能が求まるため安全側の評価ができます。
2011年7月に行った福島県内の学校プール水の除染活動において、除染後の処理水中の放射性Cs濃度を本測定法により測定しました。その際、水を張ったポリタンク内にGMサーベイメータを水没させバックグラウンドを下げることにしました(図1-18)。除染後の処理水から採取した約100 mLの水試料中の放射性Cs濃度は、いずれも数10 Bq/L(Csディスクの吸着容量の1010分の1以下)と当時の排水基準値である200 Bq/Lを下回ったことから、周辺河川に排水しました(表1-1)。
現在この方法は、福島県内の除染現場で実際に使用されているだけではなく、10分程度の測定時間で1 Bq以下の放射能レベルまで測定できるため、水道水等の高い検出感度が求められている水試料のモニタリング法としても期待されます。