1-10 放射性セシウムに対する建物内の線量低減を評価

−建物モデルを用いた計算シミュレーションによる解析−

図1-19 三次元モデルの投影図

図1-19 三次元モデルの投影図

三次元体系で建物を模擬してモデルを構築しました。

 

図1-20 建物モデルの一階平面図

図1-20 建物モデルの一階平面図

用途に応じた部屋割りや窓の配置を考慮してモデル化しました。

 

図1-21 線量低減係数RF分布図

図1-21 線量低減係数RF分布図

木造家屋では外壁から中心部に向かって線量が低下し、病院では遮へい効果が小さい窓から入射するγ線の線量寄与が大きい等の傾向が分かりました。

東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故により、放射性核種が環境中に放出され、このうち放射性セシウム(Cs)は現在も残存しています。このような状況下での住民の健康の保護や今後の住民帰還のためには、被ばく線量を正確に評価することが重要となります。1F事故の発生後、国内では放射線モニタリングが進められており、各地域の屋外における線量率の情報が入手できます。一方、日常生活では家屋等の建物に滞在する時間が長く、屋内では屋外と比較して線量率が低くなります。そのため、日常生活の実態に即した住民の外部被ばく線量を評価する際に、各種建物による線量低減を正確に見積もる必要があります。

そこで、福島県内の建物の調査結果から、代表的な27種類の建物を選定し、建物内での線量低減を計算シミュレーションにより解明しました。選定した建物は図1-19のように三次元体系でモデル化し、その内部構造は図1-20のように用途に応じて間仕切りして、建物モデルを構築しました。建物モデルを放射線輸送計算コードPHITSに取り込み、土壌中に広く一様に沈着した放射性Csから放出されるγ線が建物内に入射する様子を模擬しました。この計算により、屋外と屋内の線量比(線量低減係数RF)を解析しました。また、建物内の線量分布を詳細に計算し、図1-21のようにその結果を平面図上に重ねて図示することで、各種建物の構造等が内部の線量低減に与える影響について分析しました。

木造家屋内の線量低減係数は、図1-21(e)のように外壁から中心部に向かって低下し、敷地面積が大きいほど線量低減係数が低くなりました。これらの傾向は、家屋が建つ地面の部分に放射性Csが存在しないことによります。これに対し、コンクリート造の建物では、木造家屋に比べて壁等の遮へい効果が大きいため、内部の線量はより低減し、遮へい効果の小さい窓の有無やその大きさ、配置が線量低減に大きな影響を与えることが分かりました(図1-21(f))。

以上のように、本研究では各種建物の構造等が内部の線量低減に与える影響について解析できる技術を開発しました。この技術を活用して得られるデータは、住民帰還後の線量レベルの予測,被ばく低減対策等への活用が期待されます。