2-1 燃料破損の瞬間を数値モデルで再現・解明

−損傷力学モデルによる被覆管破損シミュレーション−

図2-3 長期間使用した燃料被覆管の破損とモデル化

図2-3 長期間使用した燃料被覆管の破損とモデル化

(a)破損した被覆管の外周部にき裂が見られ、破損の起点となったと推定されます。(b)破面には多数の小さな窪み(ディンプル)が観察されたことから(c)ある程度引き延ばされてからちぎれる小さな粒の集まりとして被覆管をモデル化しました。

 

図2-4 破損シミュレーションの結果

図2-4 破損シミュレーションの結果

(d)初期き裂の長さにより、き裂進展挙動が変化しました。(e)進展開始からき裂が肉厚を貫通するまでの過程は一瞬に起こり、この間被覆管全体としての変形はほとんど進んでいません。

原子炉から制御棒が急に飛び出して出力の暴走が起こる種類の事故は反応度事故(RIA)と呼ばれ、原子炉の設計に当たっては必ずRIAの発生を想定し、安全性を確認する必要があります。我が国では原子炉安全性研究炉(NSRR)でRIA模擬実験を行い、長期間使用した燃料は破損しやすくなる結果が得られたため、使用期間に応じ新しい燃料よりも厳しい安全基準が適用されています。長期間使用した燃料が壊れやすいのは、原子炉の運転中に燃料被覆管に吸収された水素が被覆管の外側に集積し、水素の作用で外側部分が脆くなった結果、RIA時には外周部にき裂が発生・進展して被覆管を貫通するためと推定されています(図2-3(a))。しかしRIA時の破損は原子炉内でかつ極めて短時間に生じる現象であるため、直接観察して確かめることはできず、破損の仕組みに関するこのような推定を裏付けることは難しいと考えられていました。

そこで、コンピュータ上で仮想的な被覆管を作成し、仮想的なRIA実験を行うことを考えました。まず被覆管を、引っ張るとちぎれる性質を持つ10 μm程度の粒(図2-3(c))の集まりとしてモデル化します。この粒がどの程度でちぎれるかは別途実験を行って決めます。この仮想的な被覆管に、RIA時に想定される力をかけ、破損するかを調べました。こうした着想はこれまでのRIA時破損研究にはなく、また種々の試験データと高度な計算技術の蓄積を経て近年初めて実現しました。

シミュレーションの結果、RIA実験で観察された被覆管の破損形態の再現に成功し、初期き裂が短いと斜め方向の、長いと垂直なき裂進展が生じること(図2-4(d))、一旦き裂進展が開始すると1 ms以下の極めて短い時間の内に肉厚貫通に至ること(図2-4(e))など、観察や観察からの推定と良く一致する傾向が得られました。このことは、き裂の発生と進展による破損という理解が正しかったことを示しています。破損過程を更に分析し、斜め方向のき裂進展が優勢な破損(図2-3(a))は、き裂周辺で生じる力によって軟化した領域が斜め方向に広がり、ある段階で一度にすべりを起こす仕組みで生じていたことを解明しました。さらに、力のかかり方や温度の分布によって、破損が起こる条件がどの程度変わるかについても、このモデルを使って知見を得ることができました。こうした知見を裏付けとして、長期間使用した燃料の破損条件をより正確に評価できる安全評価手法の開発を進めています。