図2-7 原子炉圧力容器上蓋におけるPWSCCの模式図
図2-8 米国デービスベッセにおけるPWSCCの発生事例解析
原子力発電プラントの長期使用に伴い、国内外の加圧水型原子炉(PWR)における原子炉圧力容器上蓋貫通部等のニッケル(Ni)基合金異材溶接部において、図2-7に示すようなPWR 1次系水質環境中応力腐食割れ(PWSCC)が顕在化しています。これまで沸騰水型原子炉(BWR)におけるステンレス鋼製の再循環系配管溶接部等で度々確認された応力腐食割れとは異なり、PWSCCはNi基合金の母材や溶接金属を選択的に進展し、複雑な形状の異材溶接部に発生事例が多いなどの特徴が見られました。国内外のPWSCCに関する実機の損傷事例や既往研究を調査したところ、構造健全性評価において重要な材料強度、き裂進展速度及び残留応力分布等の影響因子には大きなばらつきがあることが明らかとなりました。これらのばらつきを適切に考慮して合理的な構造健全性評価を行うため、Ni基合金異材溶接部を対象とした確率論的破壊力学 (PFM) 解析コードPASCAL-NPを開発しました。PASCAL-NPは、PWRにおけるPWSCCのみならず、BWR水質環境中のNi基合金異材溶接部おける応力腐食割れ(NiSCC)等、複雑な形状の異材溶接部に発生する多様なき裂進展形態に対応し、き裂発生までの潜伏期間,き裂進展速度,残留応力分布等の影響因子とそのばらつきも考慮し、確率論的計算に係るモンテカルロ法を用いて、対象機器の漏えいや破断などの破損確率を算出します。
米国デービスベッセ原子炉圧力容器上蓋貫通部におけるPWSCC発生事例を対象とした漏えい確率解析事例を図2-8に示します。解析から得られた累積漏えい確率は、約16年を経過すると5%を超えることが分かります。制御棒貫通管の総数は69本であり、このうちの3本(約4.3%)で漏えいが確認されたことから、PFM解析結果は実機確認結果と良く一致しました。
PFMは、これまでに起きたことのない事象による破損確率の推定,長期運転による経年劣化を考慮したリスク評価,リスク情報を活用した検査計画の策定等にも役立つ手法として期待されています。今後も最新知見を反映するなどPASCAL-NPの改良を継続し、健全性評価手法の高度化に貢献していきます。