2-4 事故時のガス流入の影響を調べる

−ガス計測装置を用いた濃度分析−

図2-9 PWR小破断LOCAとAM策

図2-9 PWR小破断LOCAとAM策

PWR小破断LOCAにおいて、SGの2次側減圧は、伝熱管での蒸気凝縮により炉心冷却を促進できるため、有効なAM策として考えられています。

 

図2-10 非凝縮性ガス流入下の1次系と2次系圧力

図2-10 非凝縮性ガス流入下の1次系と2次系圧力

SG 2次側減圧過程において、蓄圧注入系タンクから非凝縮性ガスが流入すると2次系圧力に比べて1次系圧力の低下率が小さくなり、炉心に冷却材が注入されにくい状態になることが示唆されます。

 

図2-11 SG出口プレナム部の空気濃度

図2-11 SG出口プレナム部の空気濃度

SG出口プレナム部での酸素濃度計による空気濃度や蒸気温度と圧力に基づく評価値から、非凝縮性ガスが蓄積していることが分かります。

私たちは、大型非定常試験装置(LSTF)を用いて、事故の現象解明やアクシデントマネジメント(AM)策の有効性検討のため、加圧水型原子炉(PWR)の小破断による冷却材喪失事故(LOCA)等を模擬した試験研究を進めています。

小破断LOCAが発生し、更に非常用炉心冷却系(ECCS)の高圧注入系の起動に失敗した場合、1次系冷却材が喪失する一方で、ECCSの蓄圧注入系(ACC)等による炉心への注水が遅れるため、炉心損傷に至る可能性があります。蒸気発生器(SG)の2次側減圧は、SG伝熱管での蒸気凝縮により炉心冷却を促進できるため、有効なAM策として考えられています(図2-9)。 一方、ACCの隔離に失敗した場合、ACCタンクからの注水が終了すると、加圧用の非凝縮性ガスが1次系に流入して1次系減圧を阻害することから、ガス流入がSG 2次側減圧を伴う小破断LOCAの進展に与える影響を明らかにする必要がありました。そのため、従来煙突内の排ガスの濃度監視等に使用されてきたジルコニア酸素濃度計を基に、高圧条件(2 MPa以下)で水蒸気に混入するガスの濃度を直接計測可能な装置を独自開発し、圧力調整弁をその上流側に設置することにより、ガスの流入経路である圧力容器上部ヘッドとSG出口プレナム部のガス濃度を計測できるようにしました。

私たちは、LSTFを用いた経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)ROSAプロジェクトにおいて、PWRの水平配管小破断LOCAを模擬した試験を実施しました。このとき、運転員の操作余裕を考慮して、安全注入設備作動信号発信後10分にAM策としてSG 2次側逃し弁を全開し、更に減圧を促進させるため、1次系圧力が2 MPaに低下した時点でSG 2次側安全弁を全開しました。試験では、SG 2次側減圧を開始すると1次系圧力は2次系圧力に追従して低下しましたが、非凝縮性ガスが流入すると2次系圧力に比べて1次系圧力の低下率が小さくなりました(図2-10)。一方、 SG出口プレナム部(図2-11)と圧力容器上部ヘッドを対象にガス濃度を分析した結果、ACCタンクから流入する非凝縮性ガスはSG伝熱管や出口プレナム部に蓄積することを明らかにしました。詳細な試験データは、ROSAプロジェクトに参加した内外の規制機関等において熱水力最適評価コードの検証・整備に役立てられました。