4-3 ウランの正確な計量技術の確立を目指して

−廃棄物ドラム缶の235U量を定量する新しい非破壊測定技術を人形峠で実証−

図4-6 人形峠環境技術センター内に構築された非破壊測定装置

図4-6 人形峠環境技術センター内に構築された非破壊測定装置

本体装置(JAWAS-N)の筐体(外観: 縦2 m,横2 m,高さ約2.2 m)は、厚さ0.5 mのコンクリートから構成され、その中の空間(縦1 m,横1 m,高さ1.2 m)にドラム缶回転台,中性子発生管,3He検出器が組み込まれたディテクターバンクが収められています(図4-7)。

 

図4-7 JAWAS-N装置内部模式図

図4-7 JAWAS-N装置内部模式図

中性子発生管から中性子をドラム缶に照射し、235Uからの核分裂高速中性子を測定します。高速中性子は透過能力に優れているため内容物の影響が少なくなります。

 

図4-8 JAWAS-Nの実証試験結果

図4-8 JAWAS-Nの実証試験結果

Uがドラム缶内のどの位置にあっても測定する中性子計数値はドラム缶内235Uの量で決まります。235Uの量とγ線等による同位体比測定からドラム缶内のウラン(235U+238U)量が推定できます。

原子力事業者は、原子力施設の解体・廃止措置時にウラン(U)などの核燃料物質が付着した解体物をドラム缶に詰めて保管しています。さらに、その核燃料物質量の在庫管理が法令等で求められています。人形峠環境技術センター(以下、人形峠)でも、製錬転換施設の廃止措置により発生したドラム缶について、γ線の計数値からUの濃縮度と量を決定するパッシブ測定法により1本ごとにUの量を測定しています。しかし、ドラム缶の内容物の種類(金属,コンクリート等)やUの偏在により計数値が大きく影響を受ける場合があり、これらに起因する測定誤差の大きさが計量管理上問題となる場合があります。

この問題解決のために、原子力基礎工学研究センターでは、アクティブ高速中性子直接問いかけ法(FNDI法:Fast Neutron Direct Interrogation)によるウラン235(235U)の非破壊測定による定量化の研究開発を実施しています。 その測定技術の実用化を目指して、人形峠と共同で人形峠のU系廃棄物ドラム缶の235Uの計量を目的に人形峠施設内に図4-6に示す非破壊測定装置(JAWAS-N)を構築しました。FNDI法は、高速中性子をパルス状にドラム缶に照射することによって、235Uから発生する核分裂高速中性子のみを計数して235U量を測定します。高速中性子は物質の透過能力に優れているため、計数値が内容物の影響を受けにくいという特長があります(図4-7)。

これまでの基礎試験では、計数値から直接235U量を求める定量化法を考案し、ドラム缶の内容物やUの偏在に関係なく、小さな誤差で235U量の測定ができることを確認してきました。この研究成果を基に人形峠の装置でも、図4-8に示すように中性子計数値から235U量を直接求められること及び少量でも小さな誤差で測定できることを実証しました。

FNDI法では小さな誤差で235U量を測定できますので、同位体比が既知である場合には、ほかの同位体量も特定できるため、従来の測定法では測定が困難な場合に本法を適用すれば誤差を低減させてウラン(235U+238U)の総量を計量できる可能性があります。このため、従来の測定法とFNDI法を相補的に組み合わせて核燃料物量をより正確に測定できる技術の研究開発を今後継続して実施する予定です。