7-1 溶融炉心物質のふるまいを明らかにする

−炉心崩壊事故の影響を原子炉容器内に閉じ込めるための実験的研究−

図7-2 溶融炉心物質の原子炉容器内保持

図7-2 溶融炉心物質の原子炉容器内保持

溶融炉心物質が液柱状のまま原子炉容器下部構造に到達した場合、当該下部構造に大きな熱的負荷が生じて原子炉容器の破損に至る可能性がありますが、デブリ化することでこのような熱的負荷が大きく低減され、溶融炉心物質を原子炉容器内で保持することが容易になります。

 

図7-3 溶融炉心模擬物質のデブリ化挙動の連続画像

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図7-3 溶融炉心模擬物質のデブリ化挙動の連続画像

溶融炉心物質とNaの模擬物質としてそれぞれ高密度低融点合金の溶融物と水を用いた可視化実験を行い、溶融物表面近傍での局所的な冷却材の沸騰と蒸気膨張によって溶融物が急速にデブリ化される挙動を明らかにしました。

ナトリウム(Na)冷却型高速増殖炉で炉心燃料が溶融して崩れる事故(炉心崩壊事故)が発生してもその影響を原子炉容器内に閉じ込めておくには、原子炉容器の破損を防止して溶融炉心物質を原子炉容器内で保持し続けること(原子炉容器内保持)が不可欠です。

溶融炉心物質は制御棒案内管等を通じて原子炉容器底部へ向かって落下し、原子炉容器下部構造に大きな熱的負荷を与えて原子炉容器を破損させる可能性があります。これに対し、図7-2に示すように、溶融炉心物質が原子炉容器下部プレナムを落下する過程でNaとの混合によって細かく破砕され、粒子状の固化物(デブリ)となって当該下部構造上に堆積すれば、このような熱的負荷が低減され原子炉容器内保持が容易になります。このため、溶融炉心物質がNa中でデブリ化するまでに必要なNaの深さ(デブリ化距離)を予測する手法の確立が重要な課題となっています。

本研究では、デブリ化距離に関する試験データベースを得るため、広範囲な試験条件(溶融炉心物質の直径等)の設定と可視化観察が容易な模擬物質を用いて、Na冷却条件での溶融炉心物質の落下挙動を模擬した実験を行いました。Na冷却条件では、溶融炉心物質とNaの接触界面でNaの蒸気は発生しますが、接触界面を覆う蒸気膜が形成されることなく直接接触伝熱が維持されると考えられます。図7-3は、溶融炉心模擬物質(高密度低融点合金の溶融物)と水の組合せによってこのような伝熱条件を設定した環境において、水の中へ落下した溶融炉心模擬物質がデブリ化される様子です。本実験により、Na冷却条件でのデブリ化は、軽水炉条件での流体力学的な原因によるデブリ化と異なり、熱的な原因、すなわち溶融物表面近傍での冷却材の沸騰と蒸気膨張によって溶融物が急速にデブリ化されることを明らかにしました。さらに、Na冷却条件でのデブリ化距離は、この熱的な原因によるデブリ化促進のため、従来の軽水炉条件と比べ1/10程度に短くなることを把握しました。

本成果は、Naが有する高い冷却性が原子炉容器内保持の達成に極めて有効であることを示すとともに、デブリ化距離の予測手法確立に大きく貢献するものです。

本研究は、文部科学省原子力システム研究開発事業「炉心損傷時の炉心物質再配置挙動評価手法の開発」の成果の一部です。