8-12 地質環境の長期変動を考慮して安全性を評価する

−地層処分の安全評価における隆起侵食の影響評価技術の検討−

図8-29 隆起侵食に伴う起伏の時間変化を考慮した処分場の状態設定

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図8-29 隆起侵食に伴う起伏の時間変化を考慮した処分場の状態設定

隆起侵食とそれに伴う起伏の時間変化を既往の地形発達モデルを用いて定量化することにより、処分場が地表付近に到達する時期や地表に到達する廃棄体の数などのパラメータを時間の関数として評価することが可能になりました。

 

図8-30 河川の流域区分に応じた侵食形態の概念モデル

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図8-30 河川の流域区分に応じた侵食形態の概念モデル

 

図8-31 隆起侵食による処分場の地表到達を想定した影響評価結果

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図8-31 隆起侵食による処分場の地表到達を想定した影響評価結果

様々な地質環境条件を考慮するために透水量係数を変化させ、処分場に起因する人間への影響を評価しました。この結果、万が一処分場が地表へ接近する場合でも、ICRPで示されている放射線防護基準の目安値を下回ることが示されました。

我が国は変動帯に位置しているため、高レベル放射性廃棄物の地層処分では、長期にわたり安定な地質環境を選定することが不可欠です。このため局所的かつ突発的な地質環境の変動(断層や火山活動)が想定される地域は綿密な調査により回避されますが、我が国の幅広い地域で確認されている緩慢な現象(気候変動や隆起侵食)の影響については、サイト選定で回避することが難しいため、その影響をあらかじめ評価しておくことが重要です。このうち、隆起侵食については、数10万年を超える継続性を考慮すると、地下300 m以深に建設される処分施設と人間の生活圏との離間距離が徐々に短縮し、極端な想定の帰結として処分場が地表に接近することが考えられます。このため本研究では、隆起侵食の長期的な影響を考慮して地層処分の安全性を評価するための技術を開発しました。

従来は、隆起速度と侵食速度が等しいとの仮定のもと、処分場が一定の速度で地表に接近し、地表に到達した時点で処分場全体が平面的に一様に削剥されるという簡易な仮定に基づく評価が行われていました。しかしながら、現実的には、隆起速度と侵食速度が異なるケースが多数存在していることから、これらを考慮したモデルを開発し、評価に必要なパラメータを時間の関数として系統的に設定できる手法を開発しました(図8-29)。

さらに、処分場が地表に接近した際の評価技術として、我が国の主要な侵食プロセスである河川侵食に着目し、地形学の研究等に基づいて河川侵食の形態や隆起侵食速度との関係などを流域区分ごとに整理しモデル化しました(図8-30)。これにより、従来のモデルに比べ、侵食形態や処分場の地表到達までの時間を現象に則して評価する事が可能となりました。本技術を用いて、遠い将来に隆起侵食により処分場が地表に到達し、侵食により処分場が削剥され放射性核種が人間環境に放出されるという想定のもと、廃棄物に起因する人間への影響を評価しました。この結果、隆起侵食速度の速い河川上流部では侵食量(処分場を削剥する量)が少ないため、人間環境への放射性物質の放出量が少ないこと、一方幅広い領域が一様に侵食される下流部では、処分場の削剥量が多くなるものの、隆起侵食速度が遅いため処分場の地表到達までの時間が長く、その間に多くの核種が崩壊すること、更に中流部では地表到達の時期も削剥量も上述の2ケースの設定を超えないことから、いずれのケースにおいても、国際放射線防護委員会(ICRP)で示されている放射線防護基準の目安値を下回りました(図8-31)。