図8-9 抽出クロマトグラフィーのシステム
図8-10 242Am等のβ線スペクトル
低レベル放射性廃棄物(LLW)を処分するためには、LLWに含まれる放射性核種の濃度評価が必要です。評価対象核種の中には測定が難しい核種があり、アメリシウム242m(242mAm)もその一つです。242mAmの測定法として、表面電離型質量分析装置(TIMS)を用いた測定法と、242mAmの子孫核種である242Amがβ壊変することで生成するキュリウム242(242Cm)のα線を測定する手法(242Cm測定法)があります。TIMS測定法では測定時間は短いのですが、242Cm測定法よりも多量の試料が必要です。一方、242Cm測定法では少量の試料で定量可能ですが、定量に数ヶ月を要します。また、いずれの測定法でもAmとCmの精密な化学分離が必要です。
そこで、新規測定法として242mAmの子孫核種である242Amのβ線測定により242mAmを定量する手法を開発しました。242Amのβ線測定のためには、LLWに含まれるほかのβ線放出核種の化学分離が必須です。そのため、図8-9に示すようなシステムを用い、抽出クロマトグラフィーによる分離を実施しました。はじめに、超ウラン元素の選択的分離が可能なTRUレジン(Eichrom Technologies社製)により三価のアクチノイド(An3+)とランタノイド(Ln3+)をLLWの主な元素などから粗分離したあと、TEVA®レジン(Eichrom Technologies社製)により化学的性質が類似し、β線を放出するLn3+とAn3+を分離しました。このAn3+フラクションにはCmも含まれますが、LLWに含まれるCmにはβ線放出核種が存在しないため、β線測定での影響は無視できます。しかし、242mAmと同じ元素である243Amの子孫核種のネプツニウム239(239Np)がβ線を放出するため、その影響を見積もる必要があります。そこで、図8-10に示すように、243Amの標準線源を作製して239Npのβ線スペクトルを取得し、An3+フラクションのβ線スペクトルから差し引くことで242Amの放射能量を算出しました。その定量結果を242Cm測定法による定量結果と比較することにより、新規分析法が妥当であることを確認しました。
新規分析法では、簡易な化学操作で定量可能です。必要な試料はTIMS測定法より少量であり、定量に要する時間を242Cm測定法と比べ数ヶ月から約2週間に短縮することができました。