8-6 泥火山現象の形成メカニズムの解明を目指して

−上幌延泥火山噴出物の起源の解明−

図8-14 (a)上幌延泥火山の泥質堆積物の産状と地下水及び気泡ガスの湧出(b)本調査地域の表層地質図

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図8-14 (a)上幌延泥火山の泥質堆積物の産状と地下水及び気泡ガスの湧出(b)本調査地域の表層地質図

(Miyakawa, K. et al., G3, vol.14, no.12, 2013, p.4980-4988.,より一部加筆して転載)

 

図8-15 上幌延泥火山の泥質堆積物(●)と本地域の各地層(●,●,●,○)の化学組成(K2O,Al2O3,TiO2,SiO2)

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図8-15 上幌延泥火山の泥質堆積物(●)と本地域の各地層(,○)の化学組成(K2O,Al2O3,TiO2,SiO2

(Miyakawa, K. et al., G3, vol.14, no.12, 2013, p.4980-4988.,より一部加筆して転載)

 

図8-16 (c)輝沸石の深度分布(基礎試錐「天北」の報告より)(d)上幌延泥火山の泥質堆積物に含まれる鉱物

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図8-16 (c)輝沸石の深度分布(基礎試錐「天北」の報告より)(d)上幌延泥火山の泥質堆積物に含まれる鉱物

(Miyakawa, K. et al., G3, vol.14, no.12, 2013, p.4980-4988.,より一部加筆して転載)
XRD相対ピーク強度=(試料のピーク強度/石英標準試料のピーク強度)×100上幌延泥火山の表層には増幌層が分布(オレンジ色)

近年、地下空間の利用,防災,温室効果ガスなどの観点から、泥火山の応用地球科学的研究が着目されています。泥火山とは、一般に地下で高い間隙水圧を持つ地下水やガスが泥を伴って地表に噴出して生じた地形的高まりなどの変形地形のことをいい、泥火山を形成するこのプロセスのことを泥火山現象と呼びます。

高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性の検討として、地質環境の長期安定性を評価する必要があります。これに関する研究開発課題としては、異常間隙水圧と泥火山現象との関連性を明らかにし、それに基づいて泥火山現象の発生し得る地質条件を絞り込み、泥火山現象が発生した場合の影響範囲などを明らかにすることが挙げられます。しかしながら、我が国の陸域における泥火山については、北海道の新冠泥火山,新潟県の松代泥火山のわずか2例しかなく、更なる事例の蓄積が必要です。そこで、北海道幌延町の上幌延地域において泥火山の可能性が報告されている泥質堆積物(図8-14)を対象に、その起源の解明を行いました。以降、これを「上幌延泥火山」と呼びます。

泥質堆積物の化学組成を調べ、既存の大深度ボーリング調査(基礎試錐「天北」、図8-14(b))から得られている本調査地域に分布する各地層を構成する主要な岩石の化学組成の報告値と比較を行いました(図8-15)。その結果、上幌延泥火山で見られる泥質堆積物は、表層の増幌層を含め、羽幌層,函淵層群の混合物と推定されました。また、泥質堆積物に含まれる鉱物をX線回折分析(XRD)によって調べ、基礎試錐「天北」の報告結果と比較を行いました(図8-16)。結果、本地域では函淵層群にしか見られない特徴的な鉱物である輝沸石という粘土鉱物(図8-16(c))が、泥質堆積物に含まれることが分かりました(図8-16(d))。上幌延泥火山の表層には増幌層が分布しているため、図8-16(c)を参考に上幌延泥火山における函淵層群の深度分布を推定すると、地下約2.2〜2.4 kmになります。以上の結果から、上幌延泥火山に見られる泥質堆積物は、少なくとも地下約2.2〜2.4 kmにある函淵層群から地表へと周囲の岩石を巻き込みながら噴出した物であることが分かりました。

これまでの研究によって、上幌延泥火山において地下深部からの物質移動が生じていたことは明らかになりましたが、今後は、泥火山現象を生じさせる要因や、泥火山現象の寿命あるいは、活動周期などを明らかにしていく必要があり、この課題の解決に向かって取り組んでいます。