8-9 地下のマグマが引き起こした内陸大地震

−ヘリウム同位体比を用いた隠れた活断層の調査手法の開発−

図8-22 糸魚川−静岡構造線周辺のヘリウム同位体比

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図8-22 糸魚川−静岡構造線周辺のヘリウム同位体比

糸魚川−静岡構造線(活断層帯)周辺のヘリウム同位体比(R=3He/4He)は、火山のない場所でも大気のヘリウム同位体比(RA)以上の高い値を示します。

 

図8-23 鳥取県西部地震余震域のヘリウム同位体比

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図8-23 鳥取県西部地震余震域のヘリウム同位体比

ヘリウム同位体比は、本震や多くの余震を引き起こした地下に潜む断層の周辺で高く、離れるにつれて低下する傾向を示します。

 

図8-24 鳥取県西部地震の余震域A-A’(図8-23)における比抵抗断面図

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図8-24 鳥取県西部地震の余震域A-A’(図8-23)における比抵抗断面図

地下約30 kmよりも深いマントルから余震が多く発生した断層の近傍まで伸びる低比抵抗体(電気の流れやすい領域)は、地下深部に潜むマグマの存在を示します。震源分布の凡例は、図8-23と同様です。

地層処分に際しては、将来にわたって断層運動などが生じるおそれのない安定な地域を選定する必要があります。そのため、過去の地震活動の痕跡として地表に現れている活断層を避けることが基本となります。しかし、それまで活断層が認定されていなかった地域で、近年、いくつかの内陸大地震が発生しています。その原因のひとつとして、従来から行われている活断層の調査では見つけにくい、地下に隠れた活断層が存在すると言われています。そのため、私たちはこのような活断層を見つけ出すための新たな方法の開発を進めています。

ここで注目したのが、地下水または温泉の井戸で採取した地下水溶存ガスや遊離ガスのヘリウム同位体比(3He/4He)です。大気ではある一定の値をもつヘリウム同位体比は、火山のように地下約30 kmよりも深いマントルから地殻を通ってマグマが上昇する場所では、数倍も高い値を示します。そこで、地下に断層がある場合も、これと似たメカニズムによって、高いヘリウム同位体比が観測されるのではないかと考えました。

これを確かめるため、国内で代表的な活断層帯である糸魚川−静岡構造線の周辺で観測を行ったところ、活断層付近では大気の数倍高いヘリウム同位体比を示すことが明らかになりました(図8-22)。このことは、マントル起源のヘリウムが、活断層を通じて地表近くまで上昇したことを表していると考えられます。

さらに、2000年に発生した鳥取県西部地震(マグニチュード7.3)の震源域でも観測を行いました。この地震は、それまで活断層が認定されていなかった地域で発生し、地震の発生に伴った断層も地表に現れなかったことから、活断層が地下に潜んでいると考えられます。観測の結果によると、余震の分布から推定された地下の断層の近傍ではヘリウム同位体比が大気の数倍高く、そこから遠ざかるにつれて徐々に値が下がっています(図8-23)。また、地磁気と地電流の観測によって、地下の比抵抗(電気の流れにくさ)を調べたところ、この付近にはマグマ(低比抵抗体)が潜んでいることも分かりました(図8-24)。これらのことは、隠れた活断層を見つけ出すために、ヘリウム同位体比の観測が有効であることを示しています。また、この大地震は、マントルから上昇したマグマやそれに付随する水が断層内に侵入し、その摩擦抵抗を下げた結果、断層が大きく動いたことによると考えられます。