図9-19 2周波数で高性能を得るジャイロトロン設計のポイント
図9-20 高出力長時間化の進展と目標値
臨界プラズマ試験装置(JT-60)を超伝導化改修するJT-60SAでは、マイクロ波をプラズマに入射し、電子サイクロトロン共鳴加熱(ECH)により、高性能プラズマの生成・維持の研究を行います。ECHでは、マイクロ波の周波数に対応した磁場強度の位置で局所的な加熱が可能です。従来、大電力マイクロ波源ジャイロトロンは、単一周波数でのみ長時間出力が可能で、プラズマを閉じ込める磁場強度を変化させた場合に、適切な加熱位置を選べませんでした。そこで、2周波数を切り替え可能なジャイロトロンを開発しています。
今回、三つのポイントに着目して2周波数ジャイロトロンを設計しました(図9-19)。(1)出力窓で反射するマイクロ波を完全になくすため、窓厚を半波長の整数倍とし(2)共振器で、電子銃から出力した電子ビームのエネルギーを高い効率でマイクロ波に変換できる周波数とマイクロ波分布の組を選択する必要があります。この条件を2周波数で満たす組み合わせとして、窓厚2.3 mmとし、周波数110 GHzと138 GHzを選択し、共振器形状を最適化した結果、両周波数で高い効率が得られる条件を見つけました。さらに、(3)発生したマイクロ波を伝送に適した分布に変換するモード変換器の形状を工夫し、変換損失を低減しました。以上により、損失電力による機器の過熱を起こすことなく、長時間高出力が見込める設計ができました。
また、設計どおりの高いマイクロ波発生効率を得るには、電子ビーム中の電子の旋回エネルギーを最適な条件とする必要があります。今回開発したジャイロトロンは、3極型と呼ばれる電子銃を用いることで、周波数ごとに電子の旋回エネルギーを調整できる特徴を有します。これにより、2極型電子銃(実績:ロシア,0.95 MW/140 GHz,0.85 MW/105 GHz)では実現できなかった高い効率が、両方の周波数で得られました。その結果、定格出力電力(1MW)を二つの周波数で10 秒間出力することに成功し(図9-20)、世界最高性能を実現しました。
さらに、モード変換器での損失とそれによる発熱が設計通り小さいことを確認しました。今回は伝送路(出力窓から出力したマイクロ波を加熱対象まで導く機器)の冷却能力不足で出力時間が制限されましたが、今後、JT-60SAに向けて伝送路の改良を行うことで、目標である1 MWで100秒間の出力を達成できる見通しを得ました。