図9-23 炉心プラズマと逃走電子ビームの模式図
図9-24 磁場の乱れを加えたときの高エネルギー電子軌道のシミュレーション
トカマク方式の核融合炉では、炉心プラズマの閉じ込めに不可欠な電流が何らかの原因で遮断される「ディスラプション」と呼ばれる現象を生ずることがあります。将来の原型炉や商業炉ではディスラプションがほぼ生じない条件で運転されますが、既存の実験装置では、高性能の運転手法の開発にチャレンジする結果、意図しないディスラプションが起こることがあります。
ディスラプション時には、通常のプラズマ放電では見られない多様な現象が起こるため、それらの現象を物理的に理解することが重要です。特に、プラズマの磁気エネルギーが電子の運動エネルギーに変換されて数1000万 eVまで加速される、「逃走電子」と呼ばれる電子ビーム(図9-23)は、炉壁の損傷を招くおそれがあるためトカマク炉の安全な停止手法を確立するための喫緊の研究課題です。しかし、その発生メカニズムに関する研究はいまだ緒に就いたところです。従来の研究では、ディスラプション時に生ずる磁場の乱れを比較的単純なモデルで扱って逃走電子との相互作用を調べてきました。本研究では、ディスラプション時に生ずる磁場の乱れの空間構造を考慮した精緻なモデルに基づいて高エネルギー電子の軌道を解析するシミュレーションコードを開発し、逃走電子の振るまいを調べました。
開発したコードを用いてJT-60U装置クラスのディスラプションで発生する逃走電子の振るまいを解析した結果、ビームを構成する電子のエネルギーが数1000万 eVを超えると、電子の軌道が不安定になって散逸するメカニズムが存在することが明らかになりました (図9-24)。従来の研究では、電子が高エネルギーになるほど遠心力によって磁力線から外れた軌道をとるため磁場の乱れを感じにくく、電子の軌道はほぼ同じところに留まると考えられてきましたが、今回、ディスラプション時の磁場の乱れの空間構造を考慮した計算により、電子が高エネルギーになるほどその軌道が大きく乱れて散乱するという新たな知見を得ました。このような大きなずれは、乱れた磁場のゆらぎの周波数と高エネルギー逃走電子の運動の周波数の違いから生ずる干渉によるものです。
以上の知見は、ディスラプション時の逃走電子発生メカニズムの解明の足掛かりになるもので、ITERや原型炉におけるディスラプション・逃走電子制御の物理的基盤の構築に貢献する成果です。