図9-25 FNSのトリチウム回収実験体系
図9-26 トリチウム回収実験結果
核融合炉では、重水素(D)と三重水素(トリチウム:T)の核融合反応によって発生するDT中性子のエネルギーを熱に変換します。核融合炉では炉心プラズマ周囲にリチウム(Li)化合物を装荷したブランケットを設置し、中性子とLiとの核反応により燃料であるトリチウムを作り出します。ブランケット内のトリチウムをどうやって取り出すか、取り出されたトリチウムがどのような化学形になっているかを明らかにすることが、核融合炉の開発において重要な課題のひとつになっています。
原子力機構の核融合中性子源施設(FNS)では実際の核融合炉ブランケットで使用するのと同じLi化合物を充てんしたブランケット模擬容器をDT中性子で照射し、作り出されたトリチウムの回収特性に関する研究を行っています。
チタン酸リチウム(Li2TiO3)とベリリウム(Be)金属のブロックで組み立てたブランケット模擬体系の中に70 g のLi2TiO3小粒を充てんしたブランケット模擬容器を挿入し、体系の外側からDT中性子を照射しました(図9-25)。照射によって作り出されたトリチウムを含んでいるLi2TiO3小粒に1%程度軽水素が含まれている(H2-1%)ヘリウム(He)ガス(スイープガス)を吹き流し、Li2TiO3小粒内で作り出されたトリチウムを照射しながら取り出しました。スイープガス中の水蒸気濃度を極力低減するため、模擬容器直前にスイープガスを乾燥材に通し、水分計で水蒸気濃度をモニターしました。模擬容器内に取り付けたヒーターで、核融合炉ブランケットで想定される温度範囲までLi2TiO3小粒を加熱し、温度に対するトリチウム回収特性の違いを調べるとともに、スイープガスを二つの水(バブラー)に通すことにより、ガス成分(HT)と水成分(HTO)に分けて回収しました。
図9-26はLi2TiO3小粒の温度に対する回収したHTとHTOの量を示しています。また点線で示した値は計算機シミュレーションによって求めたLi2TiO3小粒内で作り出されたトリチウム量の値です。実験によるトリチウム生成量とシミュレーションによるそれとは良く一致することから、ブランケット内のトリチウムは乾燥水素ガスを含んだHeガスでほぼ全量回収できることを世界で初めて明らかにしました。また小粒の温度が上がるとともにHTの回収率が上がり、600 ℃以上ではHTとしての回収が全体の95%以上になることも分かりました。