図10-3 超伝導体(CuxBi2Se3)における「相対論パラメータ」の化学ポテンシャル(フェルミ準位)依存性
図10-4 零エネルギー状態密度の超伝導状態に対する常伝導状態の比の不純物濃度依存性
超伝導とは、ある温度以下で電気抵抗が突然ゼロとなる劇的な現象です。原子力分野では、核融合炉や加速器等の強磁場発生コイルへの応用のため、超伝導の研究開発が盛んに行われています。また、エネルギー損失が格段に小さいという性質から、超伝導体を使うと、宇宙空間等の極限的環境の下でも長時間動作する自立型デバイスが可能になると考えられています。
最近、トポロジカル超伝導体と称する超伝導体を微細加工することで、新しい機能を有するデバイスが提案され、その特性が盛んに調べられています。しかし、その超伝導体は不純物に「弱く」、つまり不純物が入ると超伝導転移温度が下がるため、純物質の転移温度を維持したまま、材料を加工しデバイスにすることは難しいと考えられてきました。そこで、トポロジカル超伝導体候補物質のCuxBi2Se3 の不純物耐性を詳細に調べることにしました。
トポロジカル超伝導体の物性を研究する過程で、私たちは「相対論パラメータ」と呼ばれる量が超伝導特性を決めていることを発見しました。これは、CuxBi2Se3 内の電子の従う方程式が超高速に動き回る相対論的粒子の方程式と等価とみなせるからです。そして、固体内電子が速いほど「相対論パラメータ」が大きくなり、不純物に強い超伝導の実現が可能であることが分かりました。また、合成の際にCuのドープ量を調節し、化学ポテンシャル(フェルミ準位)を変化させることで、 この「相対論パラメータ」を変化させられることも見いだしました(図10-3)。
私たちは、上記の考察結果を検証するため、実際に超伝導体へ不純物を導入し、超伝導状態の変化を調べるシミュレーションを行いました。その際、可能な限り現実を模擬するために必要な方程式を超並列計算機上で解くコードを開発し、大規模計算をスーパーコンピュータ上で行うことで高精度なシミュレーションを実現しました。計算の結果、「相対論パラメータ」が大きいほど不純物に強いこと,Cuドープ量により化学ポテンシャルが変化し、不純物への耐性が制御できることが確認できました(図10-4)。
本研究により、不純物に強い安定な超伝導体を基に新しいデバイス作成の指針が得られました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No.26800197)「マルチバンド超伝導体に対する擬ポテンシャルを用いた次元縮約有効理論の構築と応用」の成果の一部です。