図10-5 遠隔可視化システムの概要
図10-6 遠隔可視化システムの使用例
近年のスーパーコンピュータとシミュレーション技術の進展に伴い、データを転送して商用可視化ソフトで処理を行う従来の可視化手法では、ネットワークのデータ転送速度及び描画処理速度が不足し、大規模データの解析が困難になっています。この問題を解決するために、粒子ベースボリュームレンダリングと呼ばれる可視化技術に基づく遠隔可視化システムを開発しました。
本システムはボリュームデータ(三次元データ)を可視化用の粒子データに変換してから描画します(図10-5)。従来の可視化手法では可視化要素(ポリゴン)のデータサイズがボリュームデータに比例して増大していたのに対し、本システムの粒子データサイズは画像解像度のみから決定され、典型的には数十MBとなるため、数GB以上に達するボリュームデータに比べて大幅にデータを圧縮できます。この特徴を利用して、粒子データへの変換を行うサーバと粒子データの描画を行うクライアントに処理を分散し、少ないデータ転送量で遠隔可視化を実現する分散可視化技術を構築しました。
大規模データの可視化におけるもう一つの課題は並列処理です。並列可視化ではボリュームデータを多数の領域に分割して並列に処理しますが、従来の可視化手法では並列処理した可視化要素を位置関係に従って並べ替えるソート処理のために通信量が増大し、並列処理を高速化できない問題がありました。本システムではそのようなソート処理が必要なく、並列処理した粒子データを重畳して全体粒子分布を構成できますが、一方で、各領域の粒子数が物理値に依存するため、並列処理の負荷バランスを維持することが困難でした。これに対して、処理が終了した演算器から順次新しい領域を割り当てる動的負荷分散技術を開発し、1000並列程度まで処理が高速化する性能を達成しました。
スーパーコンピュータとPCをネットワーク経由で連携する遠隔可視化において本システムと既存可視化ソフトの性能比較を実施し、約30倍の高速化を達成しました。これにより、スーパーコンピュータ上の大規模データを対話的に処理することが可能となりました。本システムを原子力機構内外のユーザに広く提供するために、ユーザインターフェース等の機能整備を行い(図10-6)、オープンソースソフトウェアとして公開しました。
(https://ccse.jaea.go.jp/software/)