10-4 スーパーコンピュータ 「京」 で構造物の健全性を分析

−組立構造解析により耐震性の高いインフラ整備に貢献−

図10-7 「あるがまま」のシミュレーション

図10-7 「あるがまま」のシミュレーション

プラント構造を詳細にありのままに表現した例です。図形的には複雑な三次元構造を表します。部品ごとに色を変えて表示してあるように、様々な部品から構造物が組み立てられています。

 

図10-8 組立構造解析の分散並列化

図10-8 組立構造解析の分散並列化

「京」は、82944個のノードから構成され、一つのノードには一つのCPUが搭載されています。一つのCPUはマルチコア技術で作られており、一つのCPUの中にさらに8個のコアが内蔵されており、82944(CPU)×8(コア)=663552の並列計算が可能となります。

 


システム計算科学センターでは、計算時の規模(演算器と演算器間の通信技術)が圧倒的に向上された最先端のスーパーコンピュータ「京」の超並列計算環境を活用して、 「組立構造解析」で耐震性評価に不可欠な数値計算結果の「確かさ」を大幅に向上する原理を確立しました。

世の中にある構造物のほとんどは複数の部品からなる組立品です。組立品の健全性解析には、部品が結合する部分の取扱いに経験的な知識やノウハウが必要とされてきました。そこでさらに合理的な組立品の健全性分析を実現するため、その一つの課題である構造物を「あるがまま」の状態でシミュレーションする技術開発に取り組んできました(図10-7)。その一つが「組立構造解析」という解析技術です。

今般、原子力機構が開発した「組立構造解析」コードを「京」で動作するようにし、構造物を「あるがまま」の状態でシミュレーションできるようにしました。具体的には、組立品の振動状態を分析する上で欠かせない構造物が共振しやすい状態を求める解析を、「京」上で複数の設計案に対し異なる複数の計算手段で同時並行して実施し、計算時間を短縮すると同時に、計算結果の「確かさ」 を飛躍的に向上させることが可能になりました(図10-8)。従来のスーパーコンピュータでは、沢山の部品から組み立てられた構造物の膨大なデータを複数同時に計算することは演算能力の面から容易ではなく、また分析計算方法も経験的に選択して計算することが一般的でした。今回の研究成果を用いることで、一つの計算方法に絞り込んで計算するのではなく、複数の計算方法を比較しながら、例えば、複数の収束計算の収束程度を変えて同時に実行させ、収束の程度を容易に判定可能とすることで計算精度を高めるという一層合理的な分析が、「京」の計算機上で初めて可能となりました。また、実際に観測された地震波を入力とする組立品の振動状態を分析するシミュレーションも成功させました。

今後、本研究成果を軽水炉や次世代炉などの原子力分野はもとより産業応用にも展開し、より健全性の高い機器や施設の開発・設計に生かし、耐震性の高いインフラ整備に貢献していきます。

本研究は、文部科学省HPCI戦略プログラムの一課題である「分野4:次世代ものづくり」における「課題5:原子力施設等の大型プラントの次世代耐震シミュレーションに関する研究開発」で実施したものです。