1-1 土地利用形態により異なる空間線量率の変化

−空間線量率の減少傾向を示す環境半減期の導出−

図1-4 走行サーベイによる空間線量率測定結果の例
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図1-4 走行サーベイによる空間線量率測定結果の例

(第8次測定期間:2014年6月23日〜8月8日)

 

表1-1 減少の速い成分の環境半減期(中央値)

統計処理によって得られた土地利用形態ごとの減少の速い成分の環境半減期の中央値を示しました。中央値とは、幅のあるデータを小さい順に並べた際に中央に位置する値を意味します。

表1-1 減少の速い成分の環境半減期(中央値)

 


住民帰還などの復興に役立てるため、東京電力福島第一原子力発電所(1F)から放出された環境中の放射性セシウム(Cs)に起因する空間線量率の予測モデルを開発しました。この予測モデルでは、環境中における空間線量率の減少傾向には速い成分と遅い成分があるとして、その減少の程度を土地利用形態ごとに「環境半減期」というパラメータで表現します。このモデルにより、任意の時点の空間線量率を予測することができます。環境半減期とは、放射性Csの物理的減衰による影響を取り除き、放射性Csの環境中での挙動に影響を及ぼす様々な要因(人為的な影響,風雨などの気象条件,土地利用形態等)により、環境中の空間線量率が半分の値になるまでの時間を意味します。

先行研究において、大気圏内核実験やチェルノブイリ原子力発電所事故後の環境半減期が欧州などで求められていますが、土地利用形態が異なる我が国にそのまま適用できるのか分かりません。そこで私たちは、2011年6月から2014年8月までの期間に1Fから80 km圏内において計8回実施した走行サーベイ等による空間線量率の実測結果(図1-4)について、水域,都市などの土地利用形態ごとにデータ解析を行い、統計処理により、福島県における減少の速い成分の環境半減期を求めました。なお、減少の遅い成分の環境半減期は、45〜135年と非常に長くなることが知られており、事故後数年間のデータからこれを明確に推定することは困難であるため、予測モデルに用いる減少の遅い成分の環境半減期は土地利用形態にかかわらず同一であると仮定しました。

その結果、落葉樹や常緑樹の土地利用形態では、水域や都市部と比較して、減少の速い成分の環境半減期が長いことが分かりました。また、落葉樹や常緑樹を除いたほかの土地利用形態では、利用形態による環境半減期(中央値)の相違が顕著でなく、0.55〜0.63年程度になることが分かりました(表1-1)。今回求めた減少の速い成分の環境半減期は、放射性Csの物理的半減期より短いものの、落葉樹や常緑樹などの森林で環境半減期が比較的長いことは、森林における放射性Csの流出が極めて少ないこと等を示唆すると考えられます。福島県の大部分は森林であるため、森林における環境回復が今後の重要な課題と考えられます。

本研究は、平成26年度原子力規制庁受託事業「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の分布データの集約及び移行モデルの開発」の成果の一部です。