1-15 事故時の燃料棒の壊れ方を計算機で予測する

−粒子法に基づく燃料溶融崩壊挙動解析手法の開発−

図1-35 粒子法における界面

図1-35 粒子法における界面

異なる物質である物質1と物質2が接触している様子を表しています。物質1と物質2の界面では摩擦や表面張力が働きます。この力を計算するために新たなモデルを導入し、界面を安定して計算できるようになりました。

 

図1-36 燃料棒の溶融

図1-36 燃料棒の溶融

金属の管(ジルコニウム被覆管)と燃料ペレットで構成される燃料棒(a)が、燃料ペレット中の崩壊熱により加熱され、燃料ペレットよりも融点の低い被覆管が溶融しはじめます(b)。溶融部分が徐々に広がり重力により落下しますが、融点の高いUO2は溶け残ります(c)。

 


原子力発電所の安全性を評価するため、様々な条件の過酷事故時の挙動のシミュレーションが過酷事故解析コードにより行われています。過酷事故解析コードでは、過酷事故時に起きる複雑かつ多様な現象を詳細に取り扱うと計算負荷が大きくなり解析が不可能となるため、これらの現象を実験結果を基にした数値モデルを使い簡略化することにより取り扱っています。このため、実験で考慮されていない現象や状況が起こった場合、解析コードでは想定されていない事象を取り扱うこととなり、解析の精度が低下したり、解析の結果が正しいことを示すことができなくなったりします。過酷事故時を模擬した実験は、費用や放射性物質の取扱いなどの課題のため実施が容易ではなく、過酷事故解析コードよりも詳細なシミュレーションで実験の代わりとすることが期待されています。

そこで私たちは、過酷事故時に原子炉内で発生する燃料が溶けながら壊れていく(溶融崩壊)過程を詳細に再現できる解析コード(POPCORN)の開発を行っています。溶融崩壊過程では、燃料の溶融や凝固に加え、破壊や崩落などの様々な現象が起こることが想定されます。私たちは、溶融崩壊過程を計算するため、粒子法と呼ばれる、液体や固体などの計算対象を小さな粒の動きで表現する手法を使うことにしました。粒子法は液体や固体などの動きを小さな粒の動きで表現するため、燃料が溶けてできる液体や壊れて落下する固体を同一の方法で計算できたり、原子炉内に存在する様々な物質を異なる粒子として表現できたりするなどの点で、溶融崩壊過程を計算する方法として優れています。

POPCORNの開発について、溶融過程に関しては溶融しかけの状態における粘性を大きくすることで流れにくさを表現し、異なる流体間の表面張力や摩擦等の相互作用についてもモデルの導入や計算方法の改良を行いました(図1-35)。確認のための計算の一例として、燃料棒の一部が核分裂生成物の崩壊熱により溶融崩壊する過程を模擬し、開発中のPOPCORNを用いて計算した結果を図1-36に示します。金属の管(ジルコニウム被覆管)が二酸化ウランや核分裂生成物を含む燃料ペレットからの熱により溶融し、重力により落下していく過程が計算されています。

今後は、実際の過酷事故時に起こると思われる化学反応や共晶反応を計算できる機能の導入や実験データにより開発したコードが正しい結果を与えるかの確認などを行い、過酷事故時の溶融崩壊過程を再現できる解析コードの開発を行っていきます。