1-17 原子炉事故時の圧力容器下部の破損箇所を推定する

−高温クリープ試験とクリープ構成則の検討−

図1-39 高温材料特性試験機
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図1-39 高温材料特性試験機

金属が溶ける温度近くまでの材料特性データを取得するため、1600 ℃まで加熱して引張試験やクリープ試験を行うことのできる高温材料特性試験機を整備しました。従来のクリップゲージなどを用いた測定では不可能だった試験片の変位(長さの変化)を、並行な光線を用いて非接触で測定することで、高温域での測定が可能となりました。

 

図1-40 高温クリープ試験結果とクリープ構成則の検討

図1-40 高温クリープ試験結果とクリープ構成則の検討

高温下で生じるクリープ変形の結果の一例です。約4.5時間後の破断の直前で、ひずみが急激に増加しています。これは、クリープ変形に伴って、材料中に損傷が蓄えられるためと考えられます。この損傷を考慮したクリープ構成則を用いることで、試験結果を精度良く再現できることを確認しました。

 


私たちは、東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、炉心溶融後のデブリ等の落下に伴う圧力容器下部ヘッドの破損を数値解析により評価する研究を進めています。事故時に高温にさらされる下部ヘッドの解析を行うためには、金属が溶ける温度(融点)近くまでの材料特性が必要です。特に、高温で圧力などの荷重がかかる場合には、時間の経過とともに進行するクリープ変形が顕著になるため、高温域のクリープ特性やそれを数値解析で再現するためのクリープ構成則が必要となります。下部ヘッドを構成する材料に関する既存のデータベースでは、1100 ℃を超える高温域のデータが不足していたため、それらの材料を融点近くまで加熱して引張試験やクリープ試験を行うことのできる高温材料特性試験機を整備し(図1-39)、材料特性データを取得しました。その結果、引張特性やクリープ特性のデータベースについて、1300 ℃まで拡充することができました。

また、取得したクリープ特性のデータベースを基に、クリープ構成則に関する検討を行いました。図1-40の線は、1300 ℃のクリープ試験によって得られた時間とクリープ変形の関係です。試験片は、約4.5時間後に約50%伸びて破断しており、その直前に急激に伸びる速さが増加していることが分かります。この現象は高温になるほど顕著であることから、この現象を踏まえて高温域のクリープ構成則を検討しました。その結果、クリープ変形に伴って蓄積すると考えられる材料中の損傷の程度(損傷指数)と、材料にかかる荷重の両者をパラメータとしてクリープ変形を評価するクリープ構成則を用いることで、試験結果を精度良く再現できることを確認しました(図1-40の線)。また、このクリープ構成則により、破断時間を精度良く推定できることを確認しました。同様にほかの材料や温度に対して、このクリープ構成則の適用性を確認し、高温域までのクリープ構成則のデータベースを整備しました。以上により、数値解析によって、ある時間における温度や荷重が分かれば、クリープ構成則を用いて損傷指数を求めることができ、クリープ変形により破損に至るまでの時間を推定できる見通しを得ることができました。

今後、事故時の圧力容器下部ヘッドの破損箇所や破損に至るまでの時間の推定を行うため、別途開発している評価手法(トピックス1-16)に本研究で整備したクリープ構成則を適用する予定です。