図1-45 使用済み吸着塔内の残留水分状況(模式)と評価手順
表1-2 東京電力福島第一原子力発電所(1F)と米国スリーマイル島原子力発電所2号機(TMI-2)での汚染水処理
図1-46 吸着塔内の(a)放射線エネルギー吸収率と(b)水素発生率の評価例
東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故の汚染水処理では、セシウム吸着装置(KURION)及び第二セシウム吸着装置(SARRY)で使用済みの吸着塔の長期保管を達成するため、これまでに吸着塔内で起こる放射線エネルギーの吸収やそれに続く残留水の放射線分解による水素発生の評価を、バイアルサイズのサンプルを用いた小規模な実験を基に行ってきました(図1-45)。ここで、「小さなサンプルで得た実験データで、吸着塔のような大きなサイズでの現象を正しく評価できるのか?」という疑問が生じます。
そこで、1F事故と同様な事例の米国スリーマイル島原子力発電所2号機(TMI-2)事故時の汚染水処理に適用して、小規模実験データを基にした評価方法の検証を試みました。TMI-2事故時での1F事故時との主な違い(表1-2)は、事故から約2年後に汚染水処理を開始したこと,汚染水に海水成分が混入しなかったこと,吸着材としてセシウム(Cs)用とストロンチウム(Sr)用の2種類のゼオライトを混合して使ったことです。
実験では、評価に必要なデータを取得する中でいくつかの重要な事実を明らかにしました。例えば、水素発生に関する実験では、水のみのサンプルに比べて水とゼオライトが共存するサンプルでは水素が発生しやすいこと,ゼオライトへの水分吸着に関する実験では、水分子と強く結合する吸着表面がナノサイズの細孔中に多く存在することなど長期保管にとっても、重要な知見を得ました。
評価結果の一例を図1-46に示します。放射線エネルギー吸収率は吸着塔内の水分量とともに上昇して、ゼオライト充てん層が完全に浸水した条件では、吸着した放射性物質の崩壊熱(W)の84%に達していることが分かりました(図1-46(a))。この吸収率を基に評価した水素発生率では、浸水部からの発生率が水分量とともに増加するのに対して、充てん層全てからの発生率は減少していますが、これが吸着塔のサイズの影響を表しています(図1-46(b))。TMI-2事故時には吸着塔内で発生したガスを直接測定していましたが、処理直後の完全に浸水した条件での測定値(図1-46の)が今回の評価値と良く一致していることが確かめられました。
現在、さらに高精度な評価を実現するため、長期保管時の温度分布を考慮した評価,放射線分解挙動の詳細な解明等の研究開発を進めています。