1-19 廃棄物が含む放射能量を正確に推定する

−分析が難しい試料や核種を対象として評価する方法−

図1-43 Cs吸着塔のインベントリ評価

図1-43 Cs吸着塔のインベントリ評価

Cs吸着装置の運転開始から2014年8月までに発生した514本のCs吸着塔のそれぞれに含まれる137Csの放射能量(Bq)を推定しました。初期には、Csを高濃度に含む吸着塔が多数発生しました。その後、滞留水の処理が進み、本数とともに濃度も低下しています。

 

図1-44 燃料から発電所内土壌への核種の移行しやすさ

図1-44 燃料から発電所内土壌への核種の移行しやすさ

137Csを基準として、分析値と燃料組成の計算値(1〜3号機の合計)を用いて「輸送比」を計算しました。同位体は同じ値を取ります。1を超える値は、燃料から土壌へ移行した割合が大きいことを表します。(放射能量が大きいわけではありません)

 


東京電力福島第一原子力発電所では、燃料デブリの取出しや廃止措置に向けた対応が進められ、多種多様かつ多量の放射性廃棄物が発生しています。廃棄物を適切に処理・処分するために、必要な基本的な情報として各廃棄物が含む放射能量(インベントリ)があります。インベントリを正確に推定することによって、廃止措置をより合理的に行うことができることから、重要な開発課題です。しかし、廃棄物そのものの採取が難しい場合、放射能の濃度がごく低い場合などには、分析により直接に放射能量を測定することができません。廃棄物の放射能量を推定するための方法を確立する必要があり、二つの試みからの成果を紹介します。

一つ目の試料採取が難しい場合の例としては、汚染水処理で生じる二次廃棄物であるセシウム(Cs)吸着塔があります。原子炉建屋等に滞留している汚染水はCs吸着装置などの設備により除染されますが、その際、放射性物質が吸着されたCs吸着塔やスラッジが発生します。これらは放射線量が高く分析試料を採取できないため現在のところ分析ができません。そこで、Cs吸着装置が処理する前後の水を分析した結果を用いて137Csのインベントリを評価しました(図1-43)。スラッジについても同様に装置前後の水の分析結果からインベントリを評価しました。分析値とともに設備の運転情報を利用し、評価期間は設備の使用開始から2014年8月までとしました。週ごとに発生するCs吸着塔1本あたりの137Csのインベントリは、滞留水から除染された総137Cs量の推定にも役立ちます。結果として、1〜3号機の燃料に含まれていた137Csはその約37%が汚染水処理によって除染されたことが分かりました。

二つ目の検出が難しい場合に関して、元素の化学的な性質の類似性を利用する方法を検討しています。汚染挙動と化学的性質の関係について基礎的な知見を得るために、分析により求めた放射能濃度から、放射性物質が汚染する振る舞いを検討しました。元素による違いが重要なので、これを示す量として、濃度と元の燃料インベントリの比を求め(規格化し)、さらに検出しやすい核種との比を求めることとしました。次の式のように表し、ここでは便宜的に「輸送比」と呼びます。

土壌の分析値から「輸送比」を求めたところ(図1-44)、同位体の値は互いに同様となり元素としての振る舞いを比較できることが分かりました。また、燃料からの移行しやすさは、ヨウ素,Cs,銀,ストロンチウム,プルトニウムなどのアクチノイドの順であり、核燃料物質の放出が相対的に小さかったことが明らかになりました。

これらの手法をほかの廃棄物にも応用して、放射能量の正確な評価を進めています。

本研究は、原子力機構が国際廃炉研究開発機構の組合員として実施した経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備事業」の成果の一部を含みます。