2-1 冷却材喪失事故後の燃料被覆管の強度を調べる

−4点曲げ試験による破裂・急冷後の被覆管強度評価−

図2-3 (a)LOCA模擬試験装置(b)4点曲げ試験装置

図2-3 (a)LOCA模擬試験装置(b)4点曲げ試験装置

(a)石英管内に水蒸気を流し、電気炉を用いて被覆管を加熱します。一定時間加熱後に石英管下端より冷却水を導入することで急冷します。被覆管内部は加圧されており、昇温に伴い変形・破裂します。(b)4点曲げ試験装置は、LOCA模擬試験に供した被覆管試料の破裂側に引張応力が生じるように設計しており、破裂・変形領域に均一な曲げモーメントが加わります。

 

図2-4 LOCA模擬被覆管試料を用いた4点曲げ試験の結果

図2-4 LOCA模擬被覆管試料を用いた4点曲げ試験の結果

LOCA模擬試験での酸化量と4点曲げ試験での破断時曲げモーメントの結果です。(c)水素を吸収した試料(〜800 ppm)や、(d)酸化量が大きい試料で破断時曲げモーメントが小さくなりました。LOCA後の長期冷却時に、耐震設計審査指針(旧)における基準地震動(S2)の3.3倍相当の地震があった場合でさえも、1300 ℃以下の酸化温度でかつ15%以下の酸化量で被覆管は破断しないと考えられます。

 


発電用軽水炉施設が安全に設計されていることを確認するために、想定される事故の一つとして、一次系配管の破断等により原子炉から冷却材が流出する冷却材喪失事故(LOCA)があります。LOCA時には、炉心水位の低下に伴い燃料棒の温度が上昇しますが、高温にさらされた燃料は、非常用炉心冷却系(ECCS)の作動により炉心に冷却水が注入されることで冷却されます。燃料棒を構成する被覆管はジルコニウム合金であり、炉内の高温水蒸気に長時間さらされた場合には酸化によって脆化し、ECCSからの冷却水で急冷された場合などに破断する可能性があります。

LOCA時に酸化した被覆管の健全性に関しては、急冷時の熱衝撃に耐えられるように、規制基準(旧原子力安全委員会策定・ECCS性能評価指針)によって被覆管の最高温度と酸化される厚さの割合(酸化量)がそれぞれ1200 ℃及び15%を超えてはならないと定められています。しかし、LOCA後の炉心冷却を長期間維持するためには、長期冷却中に発生し得る地震等の外力に耐えられるように被覆管の機械的強度を確保することが重要です。

そのため、被覆管試料(図2-3(a))に対して温度調整により膨れ,破裂,高温酸化(1000〜1300 ℃),急冷を模擬したLOCA試験を実施後、被覆管の強度評価試験を行うことで、LOCA後の被覆管の外力に対する健全性を評価しました。

強度評価試験の方法としては、LOCA時に破裂及び変形した領域に対して均一な曲げモーメントが働くように設計した4点曲げ試験 (図2-3(b)) を採用しました。

得られた結果の例を図2-4に示します。破断時曲げモーメント (破断に至るまでに加えた曲げモーメント)は、長期間原子炉において照射された被覆管を想定した水素の吸収により低下すること (図2-4(c))、酸化量の増加に伴い低下すること (図2-4(d)) が分かりました。地震時の被覆管に加わる曲げモーメントは耐震設計審査指針 (旧) における地震動を基に評価し、4点曲げ試験結果と比較しました。その結果、規制基準を満たす酸化温度及び酸化量の範囲内であれば、LOCA後の長期冷却時に基準地震動 (S2) の3.3倍相当の地震が生じた場合でさえも被覆管は破断しないと考えられます。

本研究を通じて、LOCA後の燃料の長期冷却維持を評価する上で有用な知見を取得することができました。