図2-10 臨界事故を模擬した実験(TRACY実験)のデータ
図2-11 新手法の評価精度
図2-12 実験データとの比較
再処理施設は、核燃料が臨界にならないように設計されていますが、仮に臨界事故が生じても公衆と従業員が安全であることが重要です。臨界事故が発生すると図2-10のように瞬時に多量のエネルギーと放射線が放出されます。エネルギーの多くは核燃料などの温度を上昇させることに消費されますが、放射線は従業員の被ばくの原因となります。単位時間あたりに生じる核分裂エネルギー(出力)の最大値から放射線の強度の最大値を求めることができ、従業員の被ばく量の評価に必要な情報が得られます。臨界事故時の出力の変化は一点炉動特性方程式で表すことができますが、この方程式は複雑なので、従来は動特性解析コードで数値計算を行って、出力の値を求めていました。初期反応度(臨界をどれくらい超えているかを示す量)等のパラメータを変更するたびに数値計算が必要で、結果を得るのに相当の時間が必要でした。
私たちは、出力が最大となるまでの時間が非常に短いことに着目し、そこでは方程式が単純な形で表せることを利用して、この方程式を解析的に解いて、最大出力を初期反応度等の関数として表すことに成功しました。この関数は初期反応度ρ0、反応度温度フィードバック係数(主に核燃料の組成により決まる値で、温度上昇が核燃料を未臨界にする効果の大きさを表す)α1,α2,熱容量の逆数K、遅発中性子割合βなどを用いて、以下のように最大出力np を表しています。
ここで A = α1/(2α2 )です。この式で計算した値は、図2-11に示すように動特性解析コードの結果と一致します。このため、数値計算の代わりにこの関数を用いて、簡単に素早く最大出力を計算することができるようになりました。
計算方法が明白なので結果の検証も容易です。実験との比較でも図2-12に示すように、広い桁数の範囲で実験値に近い値を示します。従業員の被ばく影響評価を容易にすることで早く安全対策を講じることが期待できます。
公衆の被ばくについては、臨界が終息するまでに生じた核分裂生成物の量が重要であり、その評価のためには核分裂で生じたエネルギーの総量を求める必要があります。今後、同様の手法でエネルギーを初期反応度等の関数として表し、公衆の被ばく影響評価を簡単に素早く行えるようにしていくことを計画しています。