図2-8 確率論的事故影響評価コードOSCAAR
図2-9 PAZの目安範囲の評価例
国際原子力機関(IAEA)は、防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲に代わる新たな緊急時対策区域の概念として、予防的防護措置範囲(PAZ)を提案しました。PAZは、早期死亡等の重篤な確定的影響を防止するため、放射性物質が環境に放出される前からあらかじめ緊急防護措置(屋内退避や避難)を準備する区域です。しかしIAEAは、PAZの設定に関する基本的な考え方と目安範囲を提示したのみでした。そのため、我が国にPAZを導入するにあたり科学的根拠に基づく具体的な設定方法が必要となります。
そこで最新のリスク情報を活用して沸騰水型原子炉(BWR)及び加圧水型原子炉(PWR)で想定される様々な事故シナリオを対象に、原子力機構が開発を進めてきた確率論的事故影響評価コードOSCAAR(図2-8)を用いて環境影響評価を実施し、放射性物質の放出に伴う被ばく線量の観点からPAZの目安範囲の評価を行いました。
具体的には、まず、対象とする事故シナリオは多種多様であることから、格納容器破損頻度,放射性物質の環境への放出割合,放出開始までの時間に着目し、PAZの評価のための事故シナリオを選定しました。次に、これらの事故シナリオに対しOSCAARを用いて被ばく線量を評価しました。ここでは、重篤な確定的影響の主たる要因となる赤色骨髄線量に着目しました。また、放出される放射性物質の時間的・空間的な分布は放出時の気象条件に大きく左右されるので、季節及び昼夜の気象変動を考慮し、1時間ごとの1年分の気象条件(8760通り)全てに対して評価しました。この方法では、まず、一つの気象条件に対し、被ばく経路ごとの線量を方位別・距離別に計算し、距離ごとに全方位における最大の被ばく線量を求めました。これを全ての気象条件に対して繰り返し行います。次に、この計算結果を基に、全ての気象条件のうち、指標線量(IAEAが示した急性被ばくの対策レベルである赤色骨髄線量1 Gy)を超える気象条件の出現確率(超過確率)を距離ごとに求めました。
図2-9は、選定したBWRでの事故シナリオのうち、格納容器バイパス事故の場合における放出点からの距離と超過確率との関係を示したものです。平均的な気象条件(超過確率50%)の場合に放出点から約3 km、影響が厳しい気象条件(超過確率5%)の場合に放出点から約6 kmという評価結果が得られました。これよりPAZの目安範囲を3〜6 kmと設定できることを明らかにし、PAZ設定に関する科学的根拠を明確にしました。