図3-2 実験装置図
図3-3 ランタノイド及びアクチノイドの第一イオン化エネルギー(IP1)の推移
中学・高校の教科書にも載せられている元素周期表は、元素を原子番号の順に並べると、その化学的性質が周期性を示すことを表しています。ところが、原子番号が大きくなると、この周期性が成り立たなくなる可能性が指摘されています。
このような原子番号が100を超える元素(超重元素)は、加速器を用いることで作ることができますが、ごく少量しか生成できない上、全て短寿命の同位体であるため、その化学的性質はよく知られていません。この領域の元素を対象とした研究を進めることにより、これまで元素周期表という形で理解されてきた元素の化学的性質を、より統一的に理解できることが期待されています。
元素の化学的性質を決定付ける原子の電子配置の情報は、第一イオン化エネルギー(以下、IP1)を実験的に決定することで得ることができます。私たちは、このような元素のIP1を決定するため、高温の金属表面で起こる表面電離イオン化過程を応用した新しい手法を開発し、数秒に1個程度しか得ることのできない103番元素ローレンシウム(Lr)のIP1の決定を可能にしました。
本研究は原子力機構タンデム加速器実験施設で行いました。カリホルニウム標的(249Cf)へのホウ素ビーム (11B)照射によって合成したLr同位体256Lr (半減期27秒) をタンタル表面(温度2500 ℃)でイオン化し、このときのイオン化効率を調べることで、IP1を求めることができます(図3-2)。
本実験により得られたIP1は、4.96+0.08-0.07 eVでした。この値は、アクチノイドの中で最も低く、アルカリ金属であるナトリウム(5.1391 eV)にも匹敵するものでした。アクチノイドのIP1の推移を、ランタノイドと比較したものを図3-3に示します。ランタノイドでは、テルビウム(Tb)からイッテルビウム(Yb)まで単調にIP1が増加し、最後のルテチウム(Lu)で小さくなることが知られています。今回、LrのIP1がほかのアクチノイドに比べて大幅に低いことを示したことにより、Lrがアクチノイド最後の元素であることを、初めて実験的に証明することができました。
さらに国際共同研究のもと、超重元素の原子における電子の運動を考慮した最新の理論計算を行ったところ、理論計算値4.963± 0.015 eVが得られ、実験値を良く再現することが確かめられました。この一致は、元素の化学的性質を決める電子の配置が、Lrでは周期表からの予想と異なることを示唆するものでした。
本研究は、アクチノイドの化学的性質のより深い理解に大きく貢献することが期待できます。