図7-2 原子炉容器内の干渉物の発生
図7-3 UCS交換及びMARICO-2試料部回収作業の概略フロー
図7-4 技術開発成果の例
高速実験炉「常陽」では、2007年に計測線付実験装置(MARICO-2)を原子炉容器内から取り出す際の不具合により、炉内大型構造物である炉心上部機構(UCS)の交換と変形した実験装置MARICO-2の一部(試料部)の回収が必要になりました。炉内状況を図7-2に示しています。当該作業は、約5300人・日が従事し、2014年12月に完了しました。個人被ばく線量は最大約0.25 mSv、総被ばく線量約1.6人・mSvと極めて少なく抑えることができました。
当該作業は、図7-3に示すフローで進められました。「常陽」は供用中のナトリウム(Na)冷却型高速炉であり、使用する機器類は、高温(約200 ℃のNaが存在)・高線量(高中性子束に起因する炉内構造物等の高放射化)・アルゴンカバーガスバウンダリの確保を設計条件とする必要があります。本作業にあたって、多岐にわたる技術を開発していますが、代表例として、(1) UCS交換用揚重装置、(2)MARICO-2試料部遠隔回収装置の開発を紹介します。なお、これらの装置・機器類の開発においては、製作時に工場におけるモックアップ試験で機能を適宜確認した上で実機に適用し、その技術や運用方法を確立しています。
(1)UCSは寿命中に交換することを前提として設計したものではないため、UCS交換用揚重装置は、十分なクリアランスがないことを前提に、UCSが周囲の構造物に干渉しないようかつ干渉を迅速に検知できるように、高精度な水平度・荷重管理機能を設けています。また、UCSは高い線量を有し、図7-4(a)に示すように、厚い鉄の容器内等で取り扱う必要があるため、視認することができません。本装置設計では、荷重管理と連動した装置停止対策を講じています。
(2)MARICO-2試料部遠隔回収装置は、UCS撤去孔からアクセスし、図7-4(b)に示すように、パンタグラフ機構を設け、遠隔操作により把持機構位置を調整し、試料部を移送用ポットとともにつかみ上げ、回収するものです。本装置設計では、耐熱材料選定・熱膨張等を考慮した寸法管理を行いました。また、把持した対象物の落下防止対策は多重に講じています。
Na冷却型高速炉の炉内保守・補修では、前述した環境にあって、軽水炉と異なる技術開発が求められます。一方で、炉内保守・補修にかかわる技術を適用し、高線量の大型構造物の交換や変形した機器の回収等で実証した事例は、世界的にも希少です。今回の作業で得られた知見・経験は、今後の高速炉の炉内保守・補修技術開発に有益かつ顕著な役割を果たすものと考えています。